教育職員養成審議会『「情報」及び「福祉」の「教科に関する科目」』
に関する意見について

平成12年5月18日
国立大学協会会長
 蓮 實  重 彦

はじめに
 高等学校において新しく教科として設定される「情報」及び「福祉」は今後の日本社会にとって,きわめて重要な課題となるものであることは誰でも認識しているところである。
 したがって,それを担当する教員について独立した免許状を設定することも有意義のことと考えられ,貴審議会における審議に期待するところ大である。以下「教科に関する科目(案)」について,気付いた点及び要望したい事項をいくつか挙げることによって,意見聴取に応えることとしたい。

1. 「情報」について
(1)  現行の教員免許においても「情報」関連の教科内容が設定されている。中学校技術に「情報基礎(実習を含む)」があり,中,高の数学に「コンピュータ」がある。さらに中,高理科の物,化,生,地の各「実験」に「(コンピュータ活用を含む)」と但し書きが付いている。さらに高校家庭の一部に「情報処理」が含まれている。高校の農業,工業,商業,水産,商船などの免許において指定はされていなくとも事実上コンピュータ関連や情報処理関連の内容が取り入れられているものと思われる。こうした状況において,新設「情報」免許における「教科に関する科目」は,中,高の関連においてどのように構想されているのか,また,高校の他教科の免許内容との関連はどのように考えられているのか,整理した上での構想が示される必要があると思われる。特に提案にある「コンピュータ(実習を含む)」は数学の「コンピュータ」と同一名称となるのでぜひ関連,異同に付いてのコメントが必要となると思われる。
(2)  さらに「教職に関する科目」の「教育の方法及び技術」には「情報機器及び教材の活用を含む」こととされているので,この内容との関連もコメントされる必要があると思われる。
(3)  提案にある「情報社会論」,「情報システム論」,「マルチメディア論」は共に「論」が付されているが,教育内容としてはこれまでに無い呼称であり,印象として狭い範囲を扱うものと受け取られる危険があるのではないか,再考の必要がある。例えば,情報社会論は「情報化と社会」のようなさらに包括的な名称を採用することが考えられる。情報システム論は「情報システム設計・管理」,マルチメディア論は「マルチメディア」とする方がよりよいのではないか。
(4)  提案にある「職業指導」がなぜ取り入れることとなるのか理解できない。現行では中学校の「職業」,中,高の「職業指導」,高校の「農業」他の職業科目において設定されている。これは伝統的なものである。現在こうした免許がどのように機能しているのか,またその科目として「職業指導」がどのように有効であるのか,詳らかにしないが,教育学部においてこの科目の専門研究者を設定しているケースも希になっているように理解される。従来の教科においてはともかく,新設され,しかも21世紀をにらんでの教科,教員免許においてぜひ必要な内容なのか,再検討する必要があろう。
2. 「福祉」について
(1)  この教科及び教員免許はまったく新しいものであるので,試行され,実施の中で再検討され,修正されていくものと思われる。検討の材料となる例の一つは「社会福祉士の国家試験受験資格」であろう。現在この資格を設定している大学には公,私立大学が多く,国立大学は少ないが,教育学部の改編,改組の動向の中で増えていくものと思われる。この資格取得のために設定される授業科目,実習等と対比すると提案の科目はおおむね妥当であり,前記受験資格と両立することは,教職専門科目,教育実習の履修が必要となるので学生の負担が大きいという問題はあるとしても可能である点,評価できる。
(2)  高校の教科「福祉」には一般教養の面と専門家の養成の両面があると思われる。前者に対応する教育の担当者ならば提案の科目で十分であるが,後者の専門家養成を,例えば「介護福祉士の国家試験受験資格」の取得を目処とするとすれば,その教育担当者の免許の内容としては必ずしも十分とは言えないのではないか。特に「老人福祉論,児童福祉論及び障害者福祉論」が一括して示されているのは誤解を生じるおそれがある。この一つ一つを独立した科目として設定する必要があると思われる。また,この教科の設定が老人福祉,特に老人介護を目標に設定されたものと考えれば,担当者の教養の範囲にさらに医学的,看護的要素を濃くしておくべきではないかと思われる。
(3)  授業科目の名称では「社会福祉論(社会福祉制度を含む)」となっているが,今後の社会の在り方と関わって考えれば,「社会保障論」及び「社会保障制度論」というさらに大きな視点でとらえておく必要があると思われ,その観点で検討願いたい。さらに「ボランティア」に関わる科目も必修として設定されてもよいのではないかと考えられる。
(4)  「職業指導」については「情報」の項の(4)と同じである。
以 上