大学評価の進め方に関する要望
「コンピュータ,インターネット等を活用した著作物等の教育利用について」
(中間まとめ)に対する意見

平成12年9月1日
国立大学協会会長
蓮 實  重 彦

 ご照会のありました標記のことについて,次のとおり意見を申し述べます。

T.「第1章 序 3. 今後必要と思われる対応」について
 2頁以降:今後の課題として次の点にも留意する必要があると考えます。
1. デジタル倫理の確立
 学校,大学,公民館等の教育現場は,一般社会で要求される以上の倫理観を前提として教育を行い,かつ教育を受ける必要があります。コンピュータ,インターネットの利用に関しても著作権法等の法律規定と抵触するような,もしくは法律規定が曖昧なため確信がもてないまま活用するような事態を招くことは,教育効果を大きく妨げることになります。したがって,コンピュータ,インターネットの教育現場における利用に関しては,明確かつ有効なルール,システム,倫理の確立が必要であります。
2. 国際化,グローバル化への対応
 インターネットの利用は,国というくくりを超えて情報の受信・発信が可能なメディアであり,それゆえに著作権及びその権利制限規定も国際的な協調と整合性が必要とされます。さまざまな困難が予想されますが,教育利用という限定を設けても,このような国際的協調と整合化をはかる努力がつねに必要と考えます。

U.「第2章 権利制限の拡大が望まれる事項」について 
1. 教育機関における利用について
(1)  5頁条件Aに「(1)「学習者」によるコピー等」が加わったことは大変意義あることと思います。
(2)  条件Bについて5頁の下から2つ目のパラグラフに記されているもののほか,次のような内容を付加することを検討してはどうでしょうか。
「その授業の過程」の中に「その授業に関連して教育担当者または学習者が学習する(授業時間内とは限らない)ために行うコピー」(「過程」を,学習者の授業関連学習まで,広く学習活動を含むものと解する)
学生同士が学習のためにコピーを相互交換することはこの付加文章を広義に解釈することによって可能とする。
2. 図書館における利用について
(1)  大学図書館間相互利用システムについて
大学で行われている高度で質の高い教育活動には,学術情報を迅速に提供するシステムが不可欠であります。国立情報学研究所が我が国の学術情報流通の円滑な促進を図るため構築した NACSIS―ILL システムは,1992年4月サービス開始後,目録所在情報サービスと共に順調に発展し,欧米先進諸国とも連携を深め,いまや我が国の大学における学術研究活動,高等教育活動にはなくてはならないものとなっております。
 更には,インターネットの普及に伴いこのシステムが大学図書館間のみならず,公共図書館等を経由して,生涯学習機関や初等・中等教育機関も活用できることを期待しているところです。

V.「第3章 その他の課題」について
1. 9頁「(1)いわゆる「電子図書館」の構築・運営について」
(1)  国立大学図書館における電子図書館の現状
大学図書館は,他の図書館に先駆けて電子図書館化に取組んでいるところです。当初(1995年頃まで)いくつかの図書館が著作権が切れた古典籍など所蔵する図書館資料を電子化し利用に供しておりましたが,1998年頃から自然科学系学術雑誌のオンラインジャーナル化が爆発的に進展し,多くの大学図書館が内外の出版社等と著作権処理をも含む利用契約を結び,利用者に提供するようになってきております。21世紀にはこうした出版形態及び利用形態がさらに一般的になり普及するものと思われます。
 欧米で急速に進んでいるように,ネットワーク時代では電子出版は不可避のものであり,それらを収集,保存し,利用者に提供することも図書館の責務と思料しているところです。
 現在大学図書館が進めている電子図書館化が,「一般の図書や新聞・雑誌などの「図書館資料」をデータベース化し,インターネット等を介して利用者に送信すること」ではなく,さらには「著作者,出版社,新聞社等の利益を大きく害することになる」ものでは決してないと考えております。
(2) 電子図書館の料金徴収について
将来は,電子的にテキストを受信するときに1文字当りの料金をとり,著者に還元するというシステムにもってゆくべきで,これはソフトウェアやシステムの進歩によって可能になると考えます。したがって電子図書館は著作物を自由に電子化し(その場合,一定金額を著者に支払う),これを読者に電子的に送るときにその量に応じて料金をとり著者(出版社)に還元するというシステムを目指すべきと思います。こうしても著者(出版社)が損をしない料金設定をすればよいわけです。このような考え方も将来的にはありうることを,報告書のどこかに書いて,それに整合した形でいわば過渡期としての著作権の改革をしてゆくのがよいと考えます。
関係団体による集中的な著作権契約システムの構築を早急に進める必要があるように思います。音楽著作権処理(DAT/MD 等)で行われている情報処理機器価格への上乗せ方式等も参考になるかと思います。

以 上

(提出先:文部省生涯学習局学習情報課長)