国際的な学生交流事業予算の充実について(要望)

平成13年10月16日
国立大学協会会長
長 尾    真
第5常置委員会委員長
宮 田  清 蔵

 本年は、明治34年(1901年)に日本政府が、外国人留学生の直轄学校への最初の入学を許可する規定を制定してから百年に当たります。
 国際社会や国際経済における教育の重要性については、平成11年のケルンサミット及び平成12年の G8教育大臣会合における確認を持ち出すまでもなく、今や世界の共通認識になっており、ユネスコ等主催の世界教育フォーラム(平成12年)においても、開発途上国への教育支援を強化することとされております。このことは、我が国においては、内閣総理大臣の諮問機関である「対外経済協力審議会」が平成12年 9月21日に取りまとめた「人間を重視した経済協力の推進」で、「人間中心の開発」の考え方を取り入れていることにその方向が支持されております。この「人間中心の開発」を重視する考え方は開発途上国においても広がりを見せ、我が国に対して人材育成を中心とした協力要請が増大しており、アジア太平洋諸国を中心とする世界からの我が国留学生政策に対する期待は極めて大きいものがあります。
 国立大学協会は、かねてから、我が国の「留学生受入れ10万人計画」を支持し、全国の国立大学においては、留学生の受入れを国立大学に期待されている重要な役割の−つとして位置づけるとともに、21世紀における教育のグローバル化の中で国際競争力を持つ大学として発展するために、国費、私費による学部・大学院留学生はもとより、外国語により授業を行うカリキュラムを開発して短期の留学生を受け入れるなど、様々な工夫により積極的な対応を行ってまいりました。
 政府による留学生受け入れのための総合的な施策と相まって、我が国への留学生受入数は着実に増大しておりますが、来年度においては、我が国の構造改革を背景に、留学生交流の充実に大きく影響する ODA予算の大幅削減などが行われようとしているなど、その一部には憂慮すべき事態も見聞されます。留学生受入れなど国際的な学生交流事業の減退は、単に中・長期的な留学生等の受入れ計画に支障を来すとか、我が国の大学と海外の大学との間の信頼関係に重大な影響を及ぼすなどの次元を越えて、国際的人的ネットワークの減少、ひいては大学のグローバルスタンダードの形成にも大きく影響いたします。これを国際関係の視点で捉えれば、平和で安定した我が国の安全保障の構築にまで影響を及ぼす恐れさえあると言えるでしょう。
 留学生受入れ制度百年を機に、私どもは、以上の見地からも、留学生交流など、国際的な学生交流事業をなお一層発展させることが国際社会において我が国のプレゼンスを高める有力な施策であることを信じ、充実した事業実施のための予算措置の拡充について、一層のご配慮をいただくよう、強く要望いたします。

(要望先:自由民主党,文部科学大臣,財務大臣等)