「今後の教員免許制度の在り方」に関する意見

平成13年7月19日
国立大学協会

はじめに
 教員免許制度そのものと免許基準は、教員養成課程の教育課程編成に大きな影響を与え、それを通して教員の資質向上に関わっている。現行免許基準は、1980年代末に改定され、続いて1990年代末の改定となった。そして今般の貴部会での審議において、制度全般の検討が予定されているが、当然免許基準の改定につながる事項も検討課題とされていると思われる。現在、学校の在り方、教員の資質に関しては、社会的にさまざまな問題が指摘されているものの、教員養成の現場では改定の結果の成否を十分に検討し、自主的な教育課程の立案や授業内容の作成を実施していく十分な時間的余裕も未だないのが現状である。今般の文部科学大臣の諮問事項にある、免許制度の構造に関わる課題の検討は重要であると考えるが、免許基準の改定等についてはさらに長期的視野にたって検討が行われ、実施まで十分な時間的余裕が確保されることをまず切望するものである。

1. 教員免許の総合化について
今日、社会全体や学校教育をめぐる変化、児童生徒の発達上の変化などに対応して、学校種別毎、教科種別毎の現行免許制度を総合化・弾力化する方向で議論をすすめることは、重要と考える。
 幼稚園と小学校、小学校と中学校、中学校と高校という各学校種間の接続・連携を図り、学校種別毎の免許制度が総合化・弾力化されることによって、それぞれの段階における教育についても理解を深めていくことができるならば、教員の資質向上の観点から望ましいことである。また、教育課程において総合的な学習の時間や選択教科の時間が新設・拡大されてくるなかで既存教科枠を越えての学習指導面が重要となり、あるいはまた児童生徒のさまざまな問題行動が生れてくるなかで学級経営面や生徒指導面も重要となってきており、その意味からも教科種別毎の免許制度は再検討される必要があろう。
  しかし、そのような基本認識に立った上で、教員免許の総合化・弾力化に関する検討には、次のような諸点が考慮される必要があると考える。
(1)  安易な総合化・弾力化がそれぞれの学校種及び教科の専門性を曖昧にし、結果として教員の専門的力量の低下につながりはしないかということが危惧される。総合化・弾力化する際には、その後にそれぞれが有するべき新たな専門性の中身が用意されるべきであり、現行のように単位の積み上げによるだけで複数免許状の取得が可能となるような制度自体をぜひ再検討してほしい。
(2)  総合化・弾力化するにあたっては、既存の学校制度の枠組みばかりを前提にして考えるのではなく、児童生徒の発達段階も考慮することが必要である。
  幼稚園段階における幼児の発達のスピードが非常に速く、専門的把握が必要であることから幼稚園と小学校低学年、また小学校における教科担任制拡大の現状からして、中学との接続を意識した小学校高学年と中学校の免許の統合化の可能性もぜひ検討してほしい。あるいは小学校中学年から第一次と二次の中間の反抗期に入り中学・高校段階には第二次反抗期に入るという児童発達の観点からするならば、小学校中学年から中学1年生までと中学2年から高校3年までという接合の仕方も検討に値すると言えよう。
(3)  同時に、上で述べた接合の仕方によって生じてくる制度上の諸問題にも配慮が必要となってくるであろう。
 例えば幼稚園と小学校低学年との接合に関しては、幼稚園教諭は短期大学卒で2種免許であり小学校教諭との学歴差や免許状の差異があること、幼稚園の対象児は満3歳からであり「教育」のほかに「養護ないしは基本的な生活(食・衣・寝・排泄など)」に関する学習領域もあること、保育所との一体化が進められ「福祉」機能も含み込みつつあることなどへの配慮である。
 また、小学校と中学校との接合に関しては、小学校における学級担任制から教科担任制ヘ移行すること、あるいは小学校高学年に教科担任制を導入することなど、制度上の変更を必要となることへの配慮が必要である。
 さらに、中学校と高校との接合に関しては、すでに各地に設立されつつある6年一貫の中等教育学校に対応するという現実的な面は理解できるが、現行学校制度において中学校教育までは義務教育段階であり、高校教育が実質義務化に近いとは言え、制度の建前は中学校教育の延長線上にあるものではなない。とすれば免許制度において中・高を統合するためには、教育制度改革としての説明が先行する必要がある。
(4)  障害児教育の教育免許についても統合化を図ることへの配慮が必要である。現行の障害児教育に係る免許制度は、盲、聾、養護の学校種毎の免許状になっているが、近年、児童生徒の障害の重度化・重複化が進んでいることから総合的な専門性が求められてきている。一部で検討されている(障害児教育の)「総合免許状」(仮称)の提案も含め、一本化についてぜひ検討課題としてほしい。また、特殊学級、通級による指導に当たる教員の専門性確保も検討を要する課題となってきていることを付け加えておきたい。

2. 教員免許更新制について
 教員免許更新制問題については、一定の年限を経た後に免許の継続の可否を問うという意味で捉えるならば、教員の身分保障とも関係して、極めて慎重な検討が必要であると考える。なぜならば、もし仮に免許取消の場合、その職や職に就く可能性を奪うことになり、思想信条の侵害の危険性を含み、社会の根本問題に関わると思われるからである。
 その意味では、この問題を論じるにあたっては、@不適格教員の排除、A教員の資質向上、Bペーパー・ティーチャーの可否、の諸観点について、それぞれ別個の問題として対応が検討されるべきであると考える。
@  「不適格教員の排除」の観点から論じるならば、免許制度の問題としてではなく、必要な制度や行政的措置の問題として考えるべきであろう。教員免許更新制問題を論じる場合は、排除の論理ではなく、専門性を高めるための論理に基づかなければならないと考える。
A  「教員の資質向上」やB「ペーパー・ティーチャーの可否」について、教員の資質向上の観点から論じられることは、一定の意義があると考えられる。しかしその場合も、研修や講習を奨励したり、免許状上進や上位免許状取得を可能としたりすることと結びつけて考える必要がある。
 教員免許更新制については、アメリカで教員の資質向上策として実施されていることはよく知られているところである。しかし、大学院レベルで各種の多様なプログラム・コースが開設され、学位などとして確定され、給与や待遇の向上とも結びついてシステム化されているアメリカの場合と比べて、研修歴や学位資格などが給与にも反映していない我が国の現状からするならば、更新制の導入にあたっては慎重で、総合的な検討が必要であろう。
   我が国の現状を改善するための幾つかの案を示すとするならば、例えば次のようなものが考えられよう。
(1)  7〜10年に1回、課程認定下における講習の受講を義務づけ、それを受講しない場合は失効とする。ただし、現職の教員については、行政の研修や大学院での研修などによって代替できる措置を用意する。
(2)  免許取得しながら教職に就いていない者の場合は免許法が改定されれば免許の切り替えを行い、新たに教職に就く場合はその時点で実施されている学習指導要領についての講習ないしは試験を受けることとする。
(3)  現職研修を充実させ、修士学位取得による専修免許状への上進を積極的に位置づけ、待遇に反映させることも検討課題としてほしい。また校長や指導主事などの専門職免許を博士学位などとリンクさせて創設することも検討課題になると考える。

3. 特別免許制度と社会人の活用について
 社会においてさまざまな経験を経て、教科に関する優れた知識・技能等を有する社会人を学校に迎え入れることは、学校に個性ある教職員集団を形成し、学校教育を活性化する意味からも重要であると考える。そのことを認めながらもなおかつ、次のような点にも配慮すべきであると考える。
 現在、新規採用教員数が絶対的に減少してきており、教員志望者のうちで新卒者の採用数も減少してきている。今後、退職者数の増大や教員配置の改善策などによって教員需要の増大が期待される一方、その対応には特別免許制度や公務員再任用制度などを活用する方策が考えられている。新卒者は、社会的経験や指導能力の点でやや未熟な面があるが、その若さゆえに児童生徒の心を捉え、教職員集団や学校全体を活性化させていく面も多大に持ち合わせている。新卒者の採用数が減少すると、優秀な学生の教職離れを生じさせるばかりか、現役学生全体の教職ヘ向けた志向や意欲を殺ぐ結果をもたらしてしまう。この点での配慮も願うものである。

おわりに
 最後に、教員免許制度の改正問題は、免許基準が教員養成系大学・学部にとってのカリキュラム及び教官配置の基準にも連動していることから、それらとの関連性からの検討も 必要であることを申し添えておきたい。
 教員養成系大学・学部については、大学設置基準にも教官数の定めが無く、別表第1備考 6によって教育職員免許法及び同施行規則に規定する教科及び教職に関する科目の所要単 位を修得させるのに必要な教官数を配置するとされている。しかし、過去、道徳や生活科 が新設されながらも、教員養成系大学・学部に教官の増加はなかったように、その点にず れがみられる。免許基準を教員養成系大学・学部のカリキュラム基準とするならば、改定 に伴って教官の配置がなされるような基準の整備を行うべきであり、仮にそれを行わない とするならば免許基準の変化によって教官配置の変更を行わなくても対処できるような教 官基準の整備を実施すべきであると考える。

以 上

[提出先:中央教育審議会 初等中等教育分科会教員養成部会]