「新たな学生支援機関の在り方について」(中間取りまとめ)に関する意見

平成14年10月25日
国立大学協会
第3常置委員会委員長
鮎 川 恭 三

 新たなる支援機関は,日本育英会,留学生関係公益法人及び国が学生支援の実施主体となっている現状に対して,今後の学生支援を,日本人学生,留学生支援施策を統一的視点から展開する機関として構想されています。この新しく設置される学生支援機関の設立構想について,検討会議から平成14年10月7日付で標記の中間報告が出されました。この中間報告に対して,下記の意見を提出いたします。よろしくお取り計らいの程お願い申し上げます。



1. 統一的な理念と実施方針の下に学生支援業務を総合的・効果的に実施できる機関の設立は,高等教育における教育の充実,国際交流の推進,教育の機会均等の確保等に資するものであり,高等教育において,国際的視野を持つ我が国の発展を支え,かつ世界に貢献する人材の育成や,我が国とともに世界の発展に貢献する諸外国の人材育成への貢献に学生支援の面から寄与するものとして評価できる。

2. 新機関は,学生支援業務をリード・サポートする中核機関であり,各大学等の共同利用的な性格を有するものとして位置づけられている。この視点から,学生支援業務についての統一的な理念や実施方針は,大学等の高等教育機関及び地域社会,産業界等,国民・社会の期待に十分応えられるものであることが求められる。中間取りまとめでは,「・.2.設置形態及び組織の骨格」の節で,この点に関して「新機関の長は大学等,地域社会,産業界との連携・協力を推進するよう留意する……」との表現にとどまっているが,新機関が十分機能するためには,新機関の運営に関して,大学等や国民・社会の意見を十分に反映できる組織が必要と考えられる。この点を報告に明記することが求められる。

3. 奨学会事業が次の世代への投資であることから,国民の協力と理解を求め,可能な限り利子負担がある長期借入金等に頼らない原資の確保の重要性に言及することを望む。

4. 上記に関連して,「奨学生事業の基本的な考え方」として述べてある内容に加えて,次代を担う優れた人材にインセンティブを与えるものであることも明示することが望ましい。これに基づいて,別途の政策的手段のみならず,卒業時の適切な評価の下に,返還免除を可能とするなど,奨学金が優れた人材の育成に寄与する機能を持つ点を明らかにすることを求める。

5. 在学中に就学が困難な経済状態に陥った者などに弾力的に対応できる経済的支援・体制を組み込む必要がある。

6. 留学生支援施策について,留学生の大半を占める私費留学生がわが国で充実した教育を受け,研究をすすめるための支援及び,留学生が不慮の事態に遭遇したときの支援の充実は,わが国が国際社会に貢献する姿勢としてきわめて重要である。この点について言及する必要がある。

7. 「安心して勉学にとり組める基盤の整備」に関連して,修学支援の観点からメンタルヘルスなどの学生支援が述べられているが,これに加えて,身体に障害がある学生に対する支援も新機関の支援事業として重要である。

8. インターンシップについては,すでに他省庁とともにさまざまな推進体制が模索され,実践されている。中間取りまとめに述べられている,支部が地域の拠点となり,本部を中心としてネットワーク化する構想は,すでに進められている体制と有機的に連携し,組織を越えて効果を上げる視点でつくり上げられることが求められる。

9. 学生が主体的に進路を選択しキャリアを形成していくための,学生の職業観の涵養は進学率が50%になる現在,単なる就職指導を越えた重要な課題である。この点で,キャリア形成支援は今後,大学教育の内容とも深く関わってくる。新機関のこの面での支援は,大学と社会(とくに企業)と協力して,将来の人材育成にあたるという大学と社会の接続の観点で事業を進めることが求められる。

10. 学生の修学環境への支援として,セクシュアル・ハラスメントをはじめとする,学生の人権侵害にかかわる問題についての情報収集と大学等の相談に応じる体制つくりは,学生支援の一環としてとりあげるべき課題である。

11. 留学生支援,修学支援,インターンシップ,キャリア形成支援などの学生支援は,大学等の高等教育機関と地域をはじめとする社会の双方に関わる多様な側面をもつことから,新機関の本部・支部は多くの外部組織との有機的な連携を図り,課題解決が「ワン・ストップ」的に実施できる組織づくりが必要である。

[要望先:文部科学省高等教育局 学生課長、留学生課長]