中央教育審議会「今後の教員免許制度の在り方について」(中間報告)に対する意見

平成14年1月21日
国立大学協会
教員養成特別委員会

はじめに
 貴中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会がご検討中の「今後の教員免許制度の在り方」については、国立大学協会も、貴部会よりの求めに応じ、昨年7月の時点で「『今後の教員免許制度の在り方』に関する意見」(以下、「意見」と略称)を文書で提出するとともに、ヒアリングにおいて意見陳述を行った。その後、貴部会が論議を積み重ね、本協会の意見も一部反映しつつ標記「中間報告」をまとめられたことに対して、敬意を表したい。このたび貴部会から「中間報告」についてあらためて意見を求められたのを受けて、初等中等教育教員の養成に携わる大学・学部を擁する立場から、7月に提出した「意見」との重複をできるだけ避けながら、幾つかの点について意見を申し述べる。

I 「教員免許状の総合化・弾力化」について

 今日、社会全体や学校教育全体をめぐる変化、児童・生徒の発達上の変化などに対応して、学校種別毎、教科種別毎の現行免許制度を総合化・弾力化する方向で再度議論し、必要な改善を施すことは重要であるとの基本認識は、前回の「意見」でも表明した。今回もその基本認識に変わりないことを表明した上で、以下、幾つかの点について意見を申し述べる。

 「中間報告」は、「教員免許状の総合化・弾力化の方向性」のうち、「早急に対応すべき課題」の一つとして、小学校における教科及び既存教科以外の新たな分野の学習を指導できる専門性の高い教員の確保の必要性を指摘している。この指摘は重要である。
 しかし、この問題については、さらに以下の諸点に関しても考慮されされる必要があると考える。
(1)  「専門性」が、単なる教科に関する専門性であるだけではなく、小学生固有の心性や発達段階等に関する教育学的・心理学的・人間学的理解に立った教職の総合的専門性を含むものとして考えなければならない。
(2)  教える内容に関する専門的力量の必要性は、小学校教員の問題であるだけではなく、中学校教員についても同様に問題であること。特に前回の教育職員免許法改正によって、中学校教員の「教科に関する科目」の必修単位数が20単位に引き下げられたことによる影響については、調査に基づいた検討が必要である。
(3)  現職教員が他校種の免許状を取得する際に、教職経験を評価することによって、その取得を促進する制度の創設を図ることも併せて提案されているが、にわかにはその意義を理解しがたい。なぜならば、現在、国立の教員養成系大学・学部の多くはいわゆる「統合型学校教員養成課程」方式を採っており、すでに複数免許状の取得が促進されつつあると考えられ、あるいはまた専門性の高い教員の確保の必要性を指摘している「中間報告」の内容とも齟齬をきたしていると思われるからである。

 安易な総合化が各学校種及び教科の専門性を曖昧にしてしまう恐れのあること、あるいは単に要修得単位数の積み上げを招く結果になってしまう恐れのあることを認識した上で、中期的課題として、既存の学校制度の枠組みだけを前提にしたものでない総合化のパターンを幾つか提示し、かつ各学校種別における教員力量の共通部分や固有部分の専門的・学術的な調査研究の必要性を指摘していることは極めて重要であると考える。

 特殊教育諸学校免許の総合化の方向性はほぼ確定しているものとして、次の2点について強く要望しておきたい。
(1)  総合免許状においても、各障害の専門性の確保、特に、各障害の特性を踏まえた指導法を必ず学ぶような内容構成にする。
(2)  専修免許状については、障害別の専門性を重視することが必要である。専修免許が障害別になるか、総合免許になるかについては未定であると思われるが、総合免許の専修とする場合においても、「総合免許状専修(○○障害)」というように、障害名を明記する。

 専修免許状の種類を専攻分野別の区分とし、当面は免許状取得のために履修した専攻分野を記載することにより専修免許状の専門性(教員の得意分野)を明確にするという提案は、教師の専門性を多元的に捉える上でも重要である。
 しかし、取得要件として一定の現職経験と教育職員検定を課すことについては、その 必要性の点で疑問が残ること、記載する専攻分野の区分の例示は教育系大学院組織の構成にも影響を与える点からして更なる議論の必要性を感じること、を指摘しておきたい。

II 「教員免許更新制の可能性」について

 教員免許更新制の問題については、教員の身分保障とも関係して、極めて慎重な検討が必要であること、またいわゆる「不適格教員」を排除するための観点ではなく、教員の力量や専門性を高めるための観点での検討が必要であること、という基本認識を前回の「意見」でも表明しておいた。今回もその基本認識を重ねて表明した上で、以下、幾つかの点について意見を申し述べる。

  「中間報告」において、「現時点における我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において、教員にのみ更新時に適格性を判断したり、免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは、なお慎重にならざるを得ない」と判断されていることは、制度の持つ難点の多さから見て妥当な結論である。

 しかし、「教員の資質向上に向けての提案」に関しては、次のような点について今後更に検討される必要があると考える。
(1)  全体として適格性確保のための管理的性格が前面に出すぎており、本来の目的とすべき専門職業人としての教員の力量を高める前向きな方向性を感じさせないものとなっている。
(2)  むしろ、「(2)教員の専門性の向上を図るために」で掲げている研修施策が実効性を持つように、財政支援も含めて前向きに教員のモラール(志気)を高める方策を検討すべきである。
(3)  特に専門職業人としての教員の力量を高めるためには、非教員養成大学の大学院を含めた大学院レベルでの研修が不可欠であり、教育職員養成審議会第2次答申(平成10年)で提言されている数値目標を具体的に実施する施策を打ち出すべきである。国際的にも教員の学歴は修士大学院レベルに向かっており、専門性の形成をより高度なレベルの高等教育に結び付けていく基本原則を明確にすべきである。
 また、現状の大学院での研修機会には、例えば新教育大学大学院への2年間の派遣や事実上1年間の地元県内の大学院への派遣、あるいは修学休業制度による修学や夜間大学院における修学など、制度的・政策的に一貫性が感じられない問題点が残されていることも指摘しておきたい。
(4)  「自主研修の活性化」は専門職業人としての資質向上の重要な要素である。しかし、「中間報告」で指摘されているような自費による勤務時間外の自己啓発活動への期待は、研修費用などが税制上の優遇措置の対象となっていないこと一つを取ってみても、その活動を支え促す条件整備とインセンティヴに乏しく、現状では実効性に乏しい。教員が雇用された専門職であり、その職能向上の責任は雇用者が負っていることを踏まえ、自己研修などの積極的な支援措置を図るべきであると考える。
(5)  「研修の評価」について、「研修後の教員に対する評価結果を研修の在り方の検討に反映させ、研修プログラムを不断に改善していくこと」が提言されているが、(後述するように)教員に対する評価作業自体が困難であることから、研修成果との関連性を一義的に測定することもまた困難である。各種の研修施策については、まず参加者による評価などに基づいて直接的に改善を施していくべきである。
(6)  なお、教員の適格性を確保するための人事管理システムに関連して、人事管理に当たる責任者あるいは教員採用担当者の側における資質向上の方策についても検討の必要があることを指摘しておきたい。

 「(3)信頼される学校づくりのために」で触れられている諸点は、今後(21世紀)の学校観として重要である。学校は、パブリックなものであり、教育と学校はみんなで創っていくものであるという認識が今後いっそう必要となろう。
 その点では、「中間報告」の「信頼される学校づくり」の諸方策に関して、児童生徒や保護者や地域住民の位置づけを単に情報提供や説明責任の範囲に止めるのではなく、教員と共に信頼される学校づくりに取り組むパートナーであると位置づける視点から、今後さらに発展させていくことが必要ではないか。

 「(4)新しい教員評価システムの導入」を各都道府県に呼びかけているが、すでに幾つかの都道府県においてその検討と実施が始められてきている現状に鑑みるならば、早急にその原理的原則的な考え方を提言しておく必要がある。
 なぜならば、「教員の意欲や努力」を適正に評価することや「日々努力し、成果を挙げている教員」を適切に評価することには大きな困難が伴うからである。たとえば、「意欲や努力」は何を基準に評価できるのか、「成果」は何をもって評価できるのか等々の点一つ取ってみても合意は難しく、技術的にもクリアされていない。それゆえ評価システムは、目に付きやすい欠点を指摘し、弱点を持つ教員を排除する論理に傾きがちになり、教員のインセンティヴを弱める危険性も大きい。排除するための観点ではなく、教員の専門性を高めるための観点からの評価システムの検討が必要であることを強調すべきである。

 今後、学校長(学校管理職)の役割がますます重要になってくるが、独自の養成コースや力量形成のための研修システム、それらを踏まえた独自の免許状も必要である。そのためには、専門大学院を設置し、管理・経営等に関する専攻を開設することも検討されてよいのではないか。

III 「特別免許状の活用促進」について

 社会においてさまざまな経験を経て、教科に関する優れた知識・技能等を有する社会人を学校に迎え入れることは、学校に個性ある教職員集団を形成し、学校教育を活性化する意味からも重要であるという基本認識は、前回の「意見」においても表明しておいたところである。「中間報告」は、その方向性の具体化の一環として、特別免許状の「授与要件の緩和」「授与手続の簡素化」「有効期限の撤廃」、あるいは「社会人特別選考の実施の促進」などを提言しているが、次のような諸点についても併せて配慮すべきであると考える。

  前回の「意見」においても述べた点であるが、この社会人活用が新卒者の採用数減少 に連動しないように配慮すべきである。新卒者は、社会的経験や指導能力の点でやや未熟な面があるが、その若さゆえに児童・生徒の心を捉え、教職員集団や学校全体を活性化させていく面も多大に持ち合わせている。新卒者の採用数が減少すると、優秀な学生の教職離れを生じさせるばかりか、現役学生全体の教職への志向や意欲を殺ぐ結果をもたらすからである。

 教員養成は大学において行なうという原則に照らし、今回提言されている特別免許状 活用促進策が、事実上、大学以外での教員づくりに大きく道を開くものとならないよう配慮しなければならない。今日のさまざまな新しい教育問題に対応するための教員の専門性の水準維持及び向上の方向と齟齬を来しかねないからである。その意味から、学士の学位を求めないことは、あくまでも例外とし、特別免許状の授与手続き等も安易に簡素化したり、撤廃したりすべきではない。
 また、特別免許状の授与に当たっては、子どもの心身の発達は心性等に関する教育学 的・心理学的・人間学的教養を身につけているか否かを判断する何らかの適切な方法が不可欠である。総じて言えば、特別免許状活用促進策は、専門性の水準の維持・向上のための諸方策と併せて進められ必要があると考える。

おわりに
 最後に、教員免許制度の改正問題は、免許基準が教員養成系大学・学部及び大学院にとってのカリキュラム及び教官配置の基準にも連動していることから、それらとの関連性からの検討も必要であることを、前回の「意見」と同様、再度重ねて強調しておきたい。現在、教員養成系大学・学部は養成及び現職教育機能の充実を目的とした改革を迫られているが、それは「今後の教員免許制度の在り方」とも密接に関連しているがゆえに、これら機能の質的充実を図る方向での早急なる整備案も検討し提言されることを強く要望する。

[要望先:文部科学省高等教育局長]