第2部 考察 今後の教員養成系大学・学部の課題 調査結果をふまえて

3 教員養成における大学院の課題

1. 教員資格における大学院の課題は何か

専門委員  篠田 弘

1. 大学院の目的・編制上の課題
 戦前においては、基本的には師範学校の卒業が、正規の教員資格を証明するものであった。この師範学校は、初等教員についてみれば、長い間、中等教育程度の学校として位置づけられていた。それが1943年の「師範教育令」の改定によって、従前の「公立」から「官立」になり、専門学校程度の学校に昇格したのである。その背景には、師範学校は「皇国民錬成ノ重責」を担うべき人物を養成する学校という社会情勢があった。
 戦後の教育改革の中で、「教員の養成は、総合大学及び単科大学において、教育学科を置いて行う」という大学による教員養成の原則が確立された。そして、教員養成の形態も、従前のように、師範学校による閉鎖的形態を廃して開放的形態となり、教職課程を設置すれば、どの大学・学部においても教員を養成することが出来ることとなった。
 教育職員養成審議会の大学院等特別委員会は、・大学における教員養成の原則'が実施に移されて半世紀以上が経過した今日の社会情勢の中で、「修士課程を積極的に活用した教員養成の在り方について」の「審議経過報告」(平成10年10月)を出して次のように述べ、現在においては、大学院修士課程修了の教員資格を持つものの増大が、社会の必然的要請であるとしている。

 …その間に我が国社会は著しい高学歴化を遂げ、今日では、大学学部及び短期大学における教育が広く普及するとともに、様々な専門的職種において大学院(特に修士課程)修了者が求められるようになってきている。こうした中で、教員についても、昭和63年に修士の学位を基礎資格とする専修免許状の制度が新設された。研究者養成と並ぶ修士課程のもう一つの目的が高度専門職業人養成であることにかんがみれば、教職というその職務内容の高度化・多様化が著しい専門的職種においては、今後、専修免許状所持者も含め修士レベルの教育を受けたものの割合を更に高めていくことが、もはや必然的に求められているといっても過言ではない。

 このような状況を考え、教員資格から見て大学院の目的・編制の課題として次の三点が指摘される。
 1. 現教職員の研修(再教育)
 2. 上位あるいは異種教員資格の取得
 3. 教員の養成
 これらの目的のために、次のような編制が考えられる。
 (1) 現在の二年制修士課程の活用
 十四条特例の積極的活用や修士論文を要しない所謂トートマスター制の導入。
 (2) 修業年限を二年と固定しない単位制的課程の新設。
 第3の課題「教員の養成」については、前記「審議経過報告」では、教員養成の分野においても、医学や獣医学の分野におけるように、「6年一貫の養成教育」を行うことを意義ある一つの試みとしている。しかしここでは、一般大学卒業者を対象にした二年程度の修士課程の新設を考える。戦前の師範学校のようなものではないにしても、教員養成系大学の特殊化が懸念される今日において、いわば社会人入学の一形態とも言えるこの課程は、教員に幅広い人材を求めるのに適切な形態となろう。

2. 教員の資質・資格の向上のための現職教育の推進
 これについては、本報告書の「第U」に述べられている中にもいくつかの重要な指摘がある。すなわち、社会の変化(技術面においても精神面においても)が激しい現代においては、教員の資質・資格の面から現職教員の再教育がとくに必要である。このことは、さきの教育職員養成審議会「審議経過報告書」(平成11年11月)においても次のように述べられている。

 …現在進められている教育改革では、従来の画一的な学校教育の在り方を改め、子どもたち一人一人の個性を重視しつつ、自ら課題を見出し、考え、解決する力をはぐくむとともに、各学校が主体的に特色ある教育活動を展開していくことの重要性が指摘されている。こうしたことを踏まえれば、これからの教員には、学校教育をめぐる諸課題に自ら主体的に取り組み、日々の教科指導、生徒指導等を着実に実践しつつその更なる創造的な在り方を模索することを通じて、自らの力量を不断に高めていくことが求められることになる。そして、そのための資質能力は、養成・採用・研修の現状からすれば、学部等において習得した教員に求められる最小限必要な資質能力を基盤として、大学院レベルの教育を受け研究を積むことによって、最も効果的に習得することができるものと考える。

 現教育を推進するためには、同報告書の「修士課程への在学を容易にするための支援措置」の中でも指摘されているが、現職教員が困難を感ぜずに就学できるような諸条件の整備が必要であろう。
 大学院側が、都道府県が行う研修(5年次・10年次・20年次)に積極的に関与することは勿論であるが、現職教員の自発的な就学を促進するために、夜間大学院・夜間課程の設置や科目等履修制度の積極的な活用も考えられよう。更に、大学院の教育内容・方法等の改善によって、時代や社会の発展に応じた知識・能力を持つ教員等を養成できるコースの設置やプログラムの開発、インターネット等の活用による遠隔地授業の導入、教室における授業のみでない就学形態の多様化等の措置が講じられる必要があろう。
 また教育委員会側においても、教育の病理的とも言える減少が急激に広がりつつある現状を考え、その根本的な解決のためにも、現職教員が自発的に就学できる休業制度を創設する必要があろう。
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