「自己評価実施要項(案)」及び「評価実施手引書(案)」に対する意見について(回答)

平成13年1月12日
国立大学協会会長
 蓮 實  重 彦

 平成12年12月18日付文書をもってご照会がありました標記の件について,別紙のとおり意見を提出いたしますので,よろしくお願いいたします。
 なお,今回の回答につきましては,下記の点にご留意の上,諸要項等への反映並びに今後の貴評価事業の実施に当たられるよう厳にお願いいたします。



1.  このたびのご照会は、検討に当て得る日数がその内容に比しきわめて短く、本協会(99大学)の総意を持って回答するには不十分であったこと
2.  従って、今回の回答は、本協会内の関係組織である第8常置委員会等の一部の委員の意見を中心に取りまとめざるを得なかったこと
3.  平成12年9月20日付貴殿宛の「大学評価の進め方に関する要望」の趣旨に則り「必要十分な情報及び意見交換がなし得るよう」再度配慮されたいこと

(別紙)

    「自己評価実施要項(案)」及び「評価実施手引書(案)」に対する意見 

 以下の意見は第7回第8常置委員会で審議されたものです。これらの意見は、委員会開催前に予め上記資料を読んで提出してもらった7委員のものと、当日の委員会で出されたその他各委員のものからなっています。
 ご参考までに、各委員の意見の分布を,基本的な軸で整理すれば、(1)大学評価・学位授与機構が設置目的に定められた評価を行う際の方法の適切性に対する意見,(2)「実施要項」や「手引書」の説明内容に関する訂正等の要望に関する意見の他,(3)大学評価・学位授与機構の「第三者評価」のあり方に関する疑問など基本的枠組みに係わる意見,の3つの軸のなかに配置されますので,ご判断の上ご検討ください。


1. A 委 員

(1)  「原則として過去5年間の状況の分析を通じて行います。なお、この分析の対象とする期間は、評価の区分、実施するテーマ及び分野、あるいは評価項目の特性によっては変更されることがあります。」とあるが、本来の対象領域ごとに専門委員が検討をして「分析の対象とする期間」を決めるべきである。期間の基準が5年であるのはよいが、5年を「原則」として例外もあり得るとするのでは、領域ごとの特性を尊重することにならない。領域によっては本来あるべきではない、「出来ることをして,取り敢えず説明できる成果を挙げる」といった方向を助長することになる。
(2)  理学系研究評価の対象領域に「その他理学系に関連する領域」を設けて、境界領域、分野横断的な領域に配慮すべきである。また、各領域を細分する必要はないと考える。
(3)  各評価区分とも「機関、組織が設定する目的及び目標に即して」評価するとあるが、目的及び目標の設定と自己評価、機構による評価が時間的に接近している場合、目的及び目標の設定、自己評価を都合の良い物語として作り上げることになるであろう。分野別教育、研究評価については、今回は初回であることでやむを得ないことと考えられる。評価を受ける組織で目的及び目標の設定をしていないものは、早急に設定すると共に、必要があれば設定されているものを改善していき、評価を受ければよい。しかし、全学テーマ別評価は評価テーマが年ごとに変わるのだから、評価委員会が評価を受けようとする大学に対して、あり得る評価テーマを包括するような目的及び目標の設定(大学の基本理念の設定)を求めることが必要である。


2. B 委 員

(1)  大学評価・学位授与機構による「第三者評価」においては「明確かつ具体的な目的及び目標」概念が重要な役割を営むこととされているが,例えば,数学等の分野に,この概念を当てはめるためには,その内容を豊富化する必要があるといえよう。この豊富化は『評価実施手引書(仮称)(案)』及び『自己評価実施要項(仮称)(案)』などにおいて期待されるところであるが,理学系についてのそれにおいては,この点についての記載は特に見受けられない。一考を要するに思われる。
(2)  『評価実施手引書(仮称)(案)』及び『自己評価実施要項(仮称)(案)』においては,「評価の観点」は,「目的及び目標」と並んで,被評価機関が設定するものであると明記される一方,「評価の観点例」が評価項目ごとに列挙されている。この観点例の意味が誤解して受け取られると,大学評価・学位授与機構による「第三者評価」が大学の個性化を逆に阻害するということにもなりかねない。観点例の意味については,誤解を避けるために詳しい説明が望まれるといえよう。
(3)  個々の教員の教育研究活動の評価については,被評価機関の行う自己評価と,大学評価・学位授与機構の行う「第三者評価」とがどのような関係ないし役割分担にあるのかについてより詳しい説明があった方が理解が深まるのではないかと思われる。


3. C 委 員

(1)  極めて短期間に,このような詳細精徴な「実施要項」及び「手引書」を作成されたことに,心より敬意を表したい。また,これがあくまでも適切な評価システムの構築への第一歩に過ぎないという姿勢を明示していることを評価したい。
(2)  しかし同時に,それが@「試行」としてはあまりに「詳細精徴」にすぎるのではないか,A強制的・統制的な性格が強すぎるのでないか,という疑念を免れることができない。それは,この「第三者評価」が,それぞれの大学・学部・研究所に,事前に「自己評価」を,しかも「実施要項」に示されたフォーマットに従って実施する事を求めていることと深くかかわっている。
(3)  「第三者評価」が「自己評価」を前提とすることなしに成り立ちえないことは,あらためていうまでもない。そしてその「自己評価」は1991年の設置基準改正以来,「自己点検評価」の形で,事実上すべての国立大学で実施されている。
(4)  しかし,その「自己点検評価」(以下「自己点検」と略す)と今回の「実施要項」に求められた「自己評価」との間に大きな性格の違いと落差がある。すなわち「自己点検」はあくまでも各大学が独自に実施するものであり,フォーマットや評価の方法も各大学の自由となっている。ところが「自己評価」は,評価機構が自ら行う評価事業の一部として,各大学に一定のフォーマットによる実施を「要求」するものである。
(5)  しかも「実施要項」を読むとその「詳細精徴」な内容は,これまでの大学独自の「自己点検」の現状や水準をはるかにこえている。各大学はそうした現状とかかわりなく,この「実施要項」のフォーマットに従って資料を集め,評価を実施し,文書を作成しなければならない。強い「強制感・統制感」をおそれるのは,このためである。
(6)  こうした現状で「詳細精徴」なマニュアルにしたがって「自己評価」が行われるなら,各大学の主体的な「自己点検」の努力の積み重ねはたちまち失われ,「外部」「上から」?)の指示に従った形式的な画一的,迎合的な「自己評価」へと堕落してしまう危険性が極めて大きい。
(7)  「自己点検」の現状が,その出発から10年近くを経たいまも,期待された水準にないことは確かだが,そのレベルアップを「自己評価」の強制によってはかるべきかどうか,初めから高水準をめざすのではなく,段階的に,また自主的な努力を喚起するよう配慮が望まれる。
(8)  この問題は「実施要項」の項目設定・例示ともかかわっている。各大学の実態の把握や認識が不十分な段階で,基本的な例示を,しかも網羅的に行えば,日本の現状では,その例示にそった活動を行う必要があるのだと受けとめる大学が多数をしめることが予想される。ましてやそれが予算配分の「参考」にされるというのであれば,すべての項目・例示に落ちなく対応しようとするだろう。
(9)  その結果,個性化,多様性の期待に反して画一性をもたらす危険性が極めて強い。評価の基準となる「目的・目標」自体,国立大学がどこまで独自にそれを設定しうるのか,大学としての自主性・自律性が法的に制約されている現状では,極めて疑わしい。ここでも「詳細精徴」を初めからめざすより,まずは国立大学の現状,その多様性の把握をはかる「ゆとり」が必要だろう。
(10)  その意味では教養教育についての「実施要項」が「実状調査」からはじめられようとしている点を評価したい。「とらえ方の内容が幅広く,多様である」のは,「教養教育」に留まらず「教育サービス」についても「教育」「研究」についても同様である。「進化」の余地を十分に残した評価システムこそが,今の段階では望まれるのだということを,あらためて強調しておきたい。
(11)  「実施要項」も「手引書」も,「評価の目的」として大学の「教育研究水準の向上に資するため,設置者の要請に基づいて,教育研究活動等の状況について評価を行い」,その「評価結果を各大学にフィードバックすることにより,各大学の教育研究活動等の改善に役立てる」ことを明記している。その重要性はどれほど強調してもしすぎることはない。
(12)  国立大学の場合,「設置者」は国家ないし政府であり,したがってすべての国立大学」が評価の対象になる。つまり自らの「要請」で評価のいかんを選択することは,それぞれの大学にはできないのである。ここにも評価がまさに「外部」化し,内的な必要性や実体的な改善努力との結びつきが難しくなる危険性がひそんでいる。
(13)  したがって,「評価結果」については,なによりもそれを各大学にフィードバックし,改善努力に資することに第一の目的があることを,とくに評価者に対して「手引書」のなかで,また予定された「研修」の過程でくり返し強調する必要がある。他者による評価の伝統が極めて乏しいわが国の大学に,世界的にみてもおそらくはもっとも「詳細精徴」な「外部評価」のシステムを構築することの困難とそれがはらむ危険性について,評価者が十分な認識をもって評価にあたるよう努力を期待したい。
(14)  「第三者評価」を「評価機構」が開始するにあたって,評価の技術や方法以上に重要なのは,評価の「哲学」であり,「倫理」であることをあらためて強調しておきたい。


4. D 委 員 

「平成12年度に着手する大学評価の内容・方法等について(案)」改正案についての意見
(1)  評価の対象時期については,原則として過去5年間の状況の分析を通じて行うことが述べられている(P2.L12)が,平成12年度の評価では問題が起こる。何故なら初回の平成12年度評価では,5年間の時点での目標が明確にされていなければならず,必要な調査が過去5年間にそろっていなければならない。しかも例えば組織改革後5年経過していない場合には目標等との関連で困難な問題が発生する。したがって,大学にとっての資料等の提示や機構にとっての評価方法等が難しくなり,多大な努力や時間を要し,しかも明確な評価は得がたく,本来の評価を円滑に実施することは困難である。初年度は,各大学に目的・目標を設定する時間的余裕を与え,かつ,資料の収集等を行って,まず機構が各大学の現状を知ることから始めるべきである。99国立大学全体と共同利用機関を対象にするという世界でも初めての試みであり,しかも大学評価法等も今から試行錯誤を繰り返しつつ進化していかねばならないことからも拙速は避けるべきである。
(2)  実施時期は,全学テーマ別評価,分野別教育評価,分野別研究評価のいずれにおいても,実施要項等の通知から自己評価書・根拠資料等の提出期限までにわずか4ヶ月しかない。今回が最初であるのでその評価に十分な時間が必要であること,この時期が入試・卒業・入学・卒論・就職・転勤等教職員の作業が多い期間であることなどから,あるべき大学評価が得られるにはこの時期と期間は見直すべきである。少なくとも実状調査書・根拠資料等の提出期限は8月中とすることをお願いしたい。
 また,ヒヤリングの開始から評価結果の公表までの間に,6ヶ月しかないが,この間にヒヤリング等を経て評価報告書原案の作成(各専門委員会),次いで評価結果の取りまとめ,当該大学等に通知(評価委員会),意見の申立て(大学),意見の申立てに対する再審議(評価委員会),確定,公表というステップを踏むことになる。この中での大学側からの反論や意見の申立ては極めて重要であるので,充分な時間的余裕の確保が必要である。また,この際,評価の理論的根拠が充分用意されていなければならない。
(3)  分野別研究評価 (4)評価の内容 @項目別評価 3)研究内容及び水準の中の記述「該当なし」の意味する内容についても括弧の中に記載すべきである。
(4)  分野別研究評価の「研究内容及び水準」では,教員の構成や評価対象組織の置かれている諸条件(既に存在している大学間格差を充分に考慮して)に照らして記述することは極めて重要であるので,記述の方法(P29.L1)においてもそのことを明確にしておくべきである。

『実状調査実施要項(仮称)(案)「教養教育」(平成12年度着手)』についての意見
1. 実施要項(案)について
(1)  実状調査票の提出期限が平成13年5月とされているが,2月から4月上旬までは期末試験,入学試験,卒業式,入学式,新入生オリエンテーション,受講指導等大学の重要な行事日程が重なる時期であることを考慮すると,調査項目に関して内容を検討し総括する時間は実質的には2ヶ月もないことになり,あまりにも余裕がない。提出期限以降の過密なスケジュールを3ヶ月程度遅らせるべきである(P7)。
(2)  説明会について
@ 説明会の実施は,P7では13年1月となっているが,参考資料2によれば2月に計画されている。多忙な時期でもあるので,正確な日程と説明事項の内容を早めに通知していただきたい。
A 説明会の参加者については,1大学あたり複数名を希望する。
2. 別紙「全学テーマ別評価(教養教育)実施調査表(案)」について
(1)  表紙記載の「提出期限について」は,上記1−(1)で述べたように,平成13年8月とすべきである。
(2)  質問内容について
@ 「調査内容」の説明は,3−(1),3−(4)−2),3−(4)−3),3−(5)では不十分である。後で出てくる多肢選択式の質問を見てから設問の意味を理解する形になってはいるが,実施要項である以上,もう少し詳しく内容を説明して欲しい。
A 「4 教養教育に関する取組 (3)教育方法 4−3−1」にある「教育方法について,授業形態,学習指導方法,学習環境等を含め具体的に記述せよ」との質問は,曖昧である。とりわけ,「学習指導法」とは,設問4−3−3の「シラバス」に関する質問内容からうかがわれるような制度面において組織的に実施している「方法」のことを指すのか,科目区分や授業科目の相違に基づいて採用している「指導法」も含むのか,あるいはそれぞれの授業科目において個々の学生に対して行う学習指導法のあり方も含むのか,明確でない。また,考えられるすべてを含むのであれば,いくつかの例示を挙げてその旨を述べるべきである。
(3)  記述の用語および形式について
@ 記述内容は,「ほぼ原文のまま転載し」「広く社会に公表する」(P12)とされている以上,利用者にとって読みやすい形にする工夫が必要となる。そのためには,例えば,「」の使い方,丁寧表現の使用等記述形式について何らかの統一基準が必要と思われる。記述形式のマニュアルを作成して欲しい。
A 例えば,アドミッション・ポリシー(学生受入方針)等はまだ一般化していないと思われるカタカナ用語が散見される。一般への公開を予定する以上,日本語に統一するか,和訳を付けて併記すべきであろう。いずれ用語解説集も必要となろう。

自己評価実施要項(仮称)全学テーマ別評価「教育サービス面における社会貢献(平成12 年度分着手)」についての意見
(1)  「大学等の設定した教育サービスに関する目的・目標」(P7.L12)については,生涯学習センター等が設置されている場合には明確に決められていない場合も多いと思われる。そのような場合には,各学部等の設置した教育サービスに関する目的及び目標の内容を評価対象とすべきである。このような理由から「全学的(全機関的)な方針の下に行っている活動」(P7.L24)は削除すべきである。
(2)  要項の記述の具体的なイメージがわからないものがあるので,具体例を示すべきである。例えば,「目的は教育サービスを提供する上での基本的な方針,提供する内容及び方法の基本的な性格,活動を通じて達成しようとしている基本的な成果などについて示されている必要がある。」(P9.下からL6)のそれぞれについての例を示して欲しい。
(3)  「自己評価は,各項目において評価の観点を適切に設置し」とあるが,具体的にどのように観点を設定するのか(P10.L8),例示が望まれる。
(4)  「(2)評価項目ごとの自己評価の内容」とはどれを指すのか?(P10.L8)
(5)  自己評価は原則として過去5年間の状況の分析を通じて行うことになっているが(P10.L9),目的・目標が5年前に明確になっているとは限らない。各学部毎に,漠然としたものが多いと思われる。そのような場合,評価は不十分となる。この問題に対する見解を記述すべきである。
(6)  目的及び目標の達成状況の中で,例えば「サービス享受者側からの達成度」(P11.L1)の資料が存在しない場合もあり得る。そのような場合,どう評価するのか? このような欠測値が稀ならず存在するものと思われるがどのような対応を行うのか?
(7)  実施時期については,通知から自己評価書・根拠資料等の提出期限までは4ヶ月しかなく,しかもこの時期は,入試・卒業・入学・卒論・就職・転勤などと教職員の作業が多い時期であることなどから,期限を8月中とするべきである。また,ヒヤリング開始から評価結果の公表までの期間も短すぎるように思われる。
(8)  サービス提供者やサービス享受者という表現を大学教育において使用すること(P11.L1)には違和感がある。学生が消費者として教育サービスを享受するといったイメージは,教育の本質から見て望ましくないと思われる。

 上記のごとく,いくつかの解決すべき課題があり,また,初めての壮大な試みであり,試行錯誤を試みる期間でもある。教育サービス面での社会貢献は最近ようやく大学の役割の1つとして認められるようになった領域で,自己評価についても十分とは言えず,第三者評価の方法も検討が必要である。したがって,初年度で完了するのではなく,「教養教育」のように2年間かけて行うべきである。初年度は,機構は状況の把握を行い,十分な準備をする必要があろう。また,大学側には,捉え方,目的及び目標の設定を始め,評価を受ける体制を固める時間的余裕が必要である。そして,2年目の実績(1年間)について評価すべきである。


5. E 委 員

1. 「教養教育」実状調査実施要項(仮称)について
 本テーマのみ,2年間で実施し,12年度は評価ではなく,実情調査という位置付けで要項が記述されている。教養教育の多様のためであるとしている。13年度の評価は機関が設定する「目的」及び「目標」に即して行われ,「目的」及び「目標」が明確かつ具体的であるかどうかは重要であり,評価の前提条件であるとされている。しかし,「目的」及び「目標」が明確かつ具体的であるかどうかの基準や事例が現在,不明瞭である。従って,平成13年度の評価を前に,実情調査の結果をただ,公表するだけでなく,各機関の「目的」及び「目標」が明確かつ具体的であるかについての判定をして頂くことを希望する。 
2. 評価実施手引書(仮称)「教育サービス面における社会貢献」
 (1)書面調査と書面調査段階での評価案の整理(P.3)
 下から3行目:――再提出を求める。また,対象期間(組織)の自己評価において設定された観点に不足がある場合には,不足分の観点に対する資料・データの提出を求め,評価チームにより評価を行う。
 下線の部分が不明確:どのような場合に資料・データの提出を求めるのか不明瞭です。
 下記のように,多様に解釈できますので,明確にお示し下さい。
   a.設定された観点に対する自己評価の根拠となる資料・データに不足がある場合には?
   b.設定された観点に機関が設定した目的・目標に即した観点として不足がある場合には?
   c.設定された観点に対する大学審議会答申等が求めている方向性に不足がある場合には?
 ※この記述は全ての評価実施手引書に共通の部分です。
 ヒヤリング(P.20)
 各評価チームの構成(5名)やヒヤリング3時間程度など,評価側の詳細について記述があるが,評価対象機関が評価に対応するチームの編成に対する記述が欠けている。例えば,評価対象機関に評価機構との連絡や調整を行う代表者1名の選出を求めたり,ヒヤリングは何名の出席まで認められるか等の評価対象機関に立った記述を強く希望する。
3. 評価実施手引書(仮称)「分野別教育評価:理学系」
 評価のプロセス(P.10)
 教育目的・目標が明解かつ具体的でない場合には評価対象機関に再提出を求めることになっている。この実施に対するスケジュールに問題があると予測されるので,改善を希望する。提案では5月に自己評価書が提出され,書面調査が6月〜9月に行われることになっている。しかし,もし,実際に再提出を求められるとすると,評価6項目は目的と目標に即して記述されており,自己評価書の全面修正となり,学内での目的・目標に対する再検討,引き続いての合意,各項目の再記述など,どんなに早くても2〜3ヶ月の期間を要すると推察される。引き続きの評価実施スケジュールには大幅な遅れが予想される。従って,このような混乱を避ける為にも,学部の教育目的・目標だけ,3月上旬までに提出してもらい,明確かつ具体的であるかを3月の下旬までに判定したら如何でしょうか。もちろん,これでも評価のスケジュールは遅れますが,現在の日程よりは混乱を避けられると判断されます。
 訪問調査日程例(P.30)
 2日目の日程で2時間まで現地調査を行い,それらの結果を基に,1時間で最終評価結果を決議するには無理があると考えられます。やはり,2日目の夜には,じっくりとデータを整理し,慎重に審議を行い,3日目の朝に,審議での疑問点等を再確認し,最終評価結果の概要を説明すべきです。この日程では,評価する側も評価される側も十分審議されていない不安があり,評価結果の信頼性が問われることになりかねないと考えます。
4. 自己評価実施要項(仮称)「分野別研究評価:理学系」
 研究内容及び水準において,提出すべき業績の数として,個人別研究活動判定票Aには5点を記述するように表が作成されているが,自己評価書作成には説明が欠けており,記載するよう希望する。
 P.17の上部に医学部対象のような文章が誤って記載されている。
5. 評価実施手引書(仮称)「分野別研究評価:理学系」
 評価プロセス(P.13)部会における評価のプロセス各部会が「研究内容及び水準」,「社会的貢献」の2項目を判定し,専門委員会に提出するとしている。この評価2項目は機関が設定した研究目的・目標に沿った内容になっていると予想される為に,この部会の評価委員にも評価対象機関の研究目的・目標を念頭において評価するように留意することが望まれる。
 研究目的・目標が明確かつ具体的でない場合には評価対象機関に再提出を求めることになっているのは教育評価と同様である。従って,前述したように,この実施に対するスケジュールも教育評価と同様に,改善を希望する。
6. 分野別医学系(医学)における教育評価及び研究評価に関する自己評価実施要項,評価実施手引書については,3,4,5で記述した事項を再検討することを希望する。


6. F 委 員

検討の方針について
 「自己評価実施要項」については,大学が実際に提出をもとめられる報告書の内容を中心として検討する。今回は,時間的な制約もあり,基本的に重要と考える部分のみについて,意見を述べる。

検討結果について
T. 「全学テーマ別評価自己評価書:教育サービス面における社会貢献」について
(1)  「とらえ方」や「目的・目標」に関する調査項目は,「目標」一本に変更する。
機構が向かう方向は,目標評価である。各大学の目標は,全学の合意形成があって設定できるのであるし,それだけの手続を踏まないと全学で受容されることにはならない。機構が求めてすぐに模範解答ができるような内容のものではない。そのためには,数年をかけて各大学が機能する「目標」を立てる余裕を与える必要がある。
目標評価を目指す機構にとってまず大事なことは,各大学が「目標」→「具体的な目標=重点目標」→「行動計画・取組」→「成果の指標化」の連鎖メカニズムを自己点検評価システムとして創り上げることである。その態勢が整ってから初めて,機構の目標評価が有効に機能することになる。
目標評価の有効性に関する基本認識と大学の経営目標の現実認識が,機構のスタッフに備わっているのであれば,まずやるべきことは,各大学における目標のプランニングに関する実情調査を行うことである。これは機構の評価の基本に係わることである。
(2)  「6. 項目別自己評価結果」の項目で,各大学に自己(評定)採点を求めることはやめる。
上記の調査項目は「自己評価書」のコアになっている部分である。なぜ「自己評価書」と名付けたのかは,この項目が根拠になっている。例えばここでは,目標の達成状況を各大学に自己評定(自己採点)させることを求めている。各大学の経営目標がまだ整っていない段階で,達成度を判定させて,どのような有用な情報を得ようと考えているのだろうか。
(3)  以上,一言で意見を述べさせてもらうなら,「自己評価書」は,教養教育のテーマと同じように「実情調査表」として実施すべきである。
U. 「実情調査実施要項【教養教育】について」
(1)  「2 教養教育に関するとらえ方」,「3 目的及び目標」を新たに設定させることはやめる。
先にも述べたように,機構の評価に合わせて教養教育の理念や目標を各大学に設定させる考え方はおかしい。むしろ,これまでにどのような理念や目標を立てて改革を進めてきたかを情報あるいはデータとして報告を求めるべきである。
(2)  「4 教養教育に関する取組」の「取組」という言葉を大事にしてほしい。調査票では,「取組」は「(1)実施体制とFD」「(2)教養課程の編成及び履修状況」「(3)教育方法,クラス規模,シラバス実施状況」から構成されている。通常は,「取組」は「重点目標」にそったさまざまな活動計画や実行プログラムを指すと考える。「取組」という言葉はこれからも大事になるので,こうした内容であれば,例えば「教養科目カリキュラムの特徴と実際」などのようにカテゴリーを変更したほうがよい。


7. G 委 員


1.  これは評価ではなく,審査である。
とくに研究評価については,一人一人の個別教員(あるいはそのグループ)の研究業績について,しかも詳細な項目について評価をおこない,それを基盤に学部(研究科)全体の研究能力を評価しようという構想になっている。それを端的には,「構成員の○割が卓越」といった形での表現であらわすという。ここで構想されているのは,固定化された一種の枠組みにおいて,個別教員の業績を含めた「評価」を行おうというのであって,むしろ学部の設置審査と呼ぶべきものである。それを全大学について5年に1回行うというのは,そもそも大学評価の構想の域を大きく逸脱していると考える。
2. 「自己評価」の意味を取り違えている。
 研究についての「自己評価」は,上述のように,基本的には一人一人の教員(あるいはグループ)の研究業績の「自己評価」に基づくものとしている。しかしこれは自己評価の意味を二重に取り違えている。第一に,自己評価とは,組織としての大学が,自らの設定した目標について自ら評価を行うのであって,その方法は(個々の教員の業績の扱い方を含めて)大学自体が判断するべきものである。第二に,業績について自ら判断するのは,自己採点であって,自己評価ではない。それをするなら,むしろ客観的な評価が必要であろう。
3. 実効性が疑問
 研究評価については自己申告・採点をもとにすることになっているが,それをそのまま,評価者の側が受け入れるのか。もしそうでないとすれば,どのような基準によるのか,この点について全く不透明である。もし客観的な判断をしようとするのであれば,膨大な作業が必要となる。いってみれば,科研費の審査のようなことを全教員に行わなければならないことになる。本当にできるのか。中途半端な「評価」では誰も納得しない。
4. 教育評価
 教育評価については,全く抽象的であって,ほとんどの分野でも通用するような枠組みだけがあって,なにが判断の基準になるのか検討がつかない。そもそも,評価する側が,それぞれの分野の教育で,具体的に何が問題であるのか,という点について了解がないのではないか。訪問審査でそれを補うというかもしれないが,その場合でもどのような点に着目するかが問題である。この手引書・実施要綱では,イメージができない。


8. その他,委員会での各委員の意見

(1)  各国立大学等の設置の経緯や歴史はそれぞれ全く異なるので,設定される目標も内容も様々になる。それを一律の方向や形式でもって目標設定させるやり方は,要件審査の設置審の評価に近づくので,機構の評価のあり方とは違ったものになる。
(2)  今回の機構の評価の実施は大学の自己点検評価の実状に合ってないもので,大変社撰であると感ずる。
(3)  大学設置基準の大綱化以降に各大学が積み上げてきた自己点検評価の実績や実際をふまえて,機構の評価は行うべきである。
(4)  機構は各大学からの意見を聴取した後は,どのように検討を行いどう対応したか,その経過や結果をホームページなどに掲載するなどして,透明性を高めるべきである。それこそ評価する主体の基本的なマナーである。