「大学入試センター試験の前年度成績の利用について」の留意事項

平成13年6月1日
国立大学協会
第2常置委員会

 「平成14年度大学入学者選抜実施要項(高等教育局長通知)」から「大学入試センター試験の前年度成績利用」の項目が新たに追加され、各大学・学部の利用に供されることとなった。センター試験成績の新しい利用法については、各大学・学部の自主的な判断に任されることとなっているが、今年の1月来、この件についてのマスコミによる誤報道が続いたため、高校及び受験生にさまざまな誤解、混乱を与えている。このため、第2常置委員会では対応を協議し、下記の留意事項を各大学・学部に配布し、周知いただくことにした。
 なお、本委員会は「前年度成績の利用」については、すでに平成12年5月に《大学審議会「大学入試の改善について(中間まとめ)」に対する意見》を提出し、委員会の考えかたを示して、現段階の実施についての懸念を表明している。入試の改善、多元的な評価の実現にはもとより努力を惜しむものではないが、不完全な情報、不安をともなう体制のもとでは思わぬ事故を招く危険があり、各大学・学部におかれては、下記の事項を充分に留意された上、検討されることを要望したい。


「前年度成績の利用」に関する留意事項

1. 現役生と浪人生における公平性の確保
 前年度成績の利用は新卒見込み者(現役生)ではなく、過年度卒業の受験者(浪人生)に限られるため、その利用が一方的に浪人生の有利に働き、入学者選抜の公平性を失するおそれがある。例えば、前年度に第1段階選抜に合格した受験者が翌年には専ら個別試験の合格をめざし、その準備に専念するといった風潮を生む懸念がある。

2. センター試験成績の年度間比較の困難性
 大学入試センターは、センター試験(教科・科目)の年度間における難易差調整、得点調整は「できない」ことを明言しており、現段階では、受験者個人の成績についても複数年度間の比較は技術的に困難としている。このため、大学審議会の答申でも、「前年度成績の利用」は「資格試験的な利用」が適当である、と述べている。

3. 「資格試験的利用」の妥当性について
 しかし、センター試験を「資格試験的に利用」すれば問題がない、わけではない。センター試験は「高校教育の基礎的達成度を測る」ため、受験者の平均点60点を目標に作題されたものであり、各大学・学部がセンター試験により、各々「資格基準」を示したとしても、それは「第1次段階の選抜基準」を示すだけのことで、それ自体が固有の意味をもつわけではない。
また、この第1段階選抜を経た者は、その後の選抜においてはもはやセンター試験の成績は考慮されないということも了解事項に含まれており、資格基準が低い場合には個別試験のみに合否判定が依存するため、却って多元的な評価の目標とは矛盾することもあろう。

4. センター試験制度の一層の改善
 共通試験の制度は多元的な評価の基盤をなすものであり、「成績の利用」は信頼性の高いものでなくてはならない。"平成14年度からセンター試験は「持ち点制度」になる"、"複数年度のセンター試験成績のうち良い成績のほうを選べる"といった誤解はマスコミの誤った報道によるものであるが、「前年度成績の利用」という表現からすれば、あながち誤解とばかりは言い切れないものがある。世間的な解釈と制度的な理解との間に甚だしい隔絶がある場合には制度の不備と考えることも必要であろう。今後、秋季入学などが正規に導入された場合には、前年度成績が合理的に利用できる余地も出てこようが、当面は標準化等を含めてセンター試験のより一層の改善を望みたい。