「国立の教員養成系大学・学部の組織・体制の在り方の検討について(案)」及び
「附属学校の果たすべき役割について意見のまとめ(要旨)」に対する意見書

平成13年6月1日
国立大学協会
教員養成特別委員会

T.最初に、「国立の教員養成系大学・学部の組織・体制の在り方の検討について(案)」(以下、「組織・体制(案)」と略称する)に対する意見を申し述べる。ただし、「2.教員養成 学部が直面している課題」の内、「(1)優れた教員の養成と独自の専門性の確立」に関しては、貴懇談会の「まとめ(概要)(案)」に対する意見書の中ですでに本委員会の基本的見解 を述べたので、以下では、「組織・体制の在り方」問題の中でも中心的な論点となるであろう、いわゆる「新課程」問題と「学部の統合・再編」問題について意見を申し述べる。

1.  「組織・体制(案)」の「1.教員養成学部の沿革」においても述べられているように、教員養成系大学・学部における「新課程」は、昭和62年度から設置されてきているが、その 組織自体の拡充にもかかわらず、位置づけに関しては一貫性がないために現在もなお不安定な存在のままとなっている。
 すなわち、出発当初においては教員養成系大学・学部が学校教員養成のみならず、学校以外の様々な分野での教育的諸活動を担う指導者の養成(これを「広義の教育者養成」と呼 ぶことができる)にも乗り出していくことを象徴する組織(課程)として位置づけられていた。この位置づけ自体は、生涯学習社会が到来してくる中で、教員養成系大学・学部の新た な社会的役割として重要かつ意義深いものであったと考える。
 しかし、そのような期待を背負って出発した新課程は、卒業生を受け入れる社会的基盤整備(例えば自治体における社会教育専門職員としての独自の採用など)が遅れる状況下で、 学校教員免許を取得する学生もいることから、次第に「教員養成課程の補完的役割」を果たすような存在としても位置づけられてきてしまった。そして最近の貴懇談会での論議のなか では、「教員養成課程の補完的役割」からさらに教員養成機能の弱体化をもたらす一要因として捉える意見も見受けられ、再び大きな転換を迫られているようでもある。
 そうした経緯と動向を踏まえ、本委員会としては、次のような諸点の配慮をあらためて望むものである。
(1)  招来しつつある生涯学習社会に対応するという中長期的視野にたって、新課程発足当初の位置づけを再吟味するとともに、さらに今後どのような社会的役割を果たす組織と して位置づけていくべきなのか、またそのためにはどのような存在形態がふさわしいのか、という点についての根本に立ち返っての議論を期待したい。
 また教員養成課程との関連で新課程の意義を述べておくならば、新課程は、発足当初より、教員養成課程とは異なった個性や資質を有した学生を受け入れ、その内の教員志望者 に養成教育を施し教育界に送り出してきた。そのことによって教員養成上において相乗作用が起こることを図ったのであり、新課程発足時の期待の一つもその点にあった。それゆ え、そうした観点からの実態調査も十分に行なった上での論議を期待したい。
(2)  全国の大学における学部構成は多様であり、その中での教員養成系学部の位置と役割も各大学ごとに異なっている。とりわけ、総合・複合大学における新課程は、大学と地域 の実状に応じ、さまざまな課程が設置されている。それらは、教員養成系学部の総合性を活かした情報教育課程などの文理融合的課程や生涯教育の時代に対応した課程、臨床心理 学の基礎をもって教育団体等に進出する人材の養成課程などであり、それぞれが大学内の他学部の機能と重ならない形で設定され、地域のニーズに応えている。
 したがって、新課程もまた、たんに教員養成系学部の中の一組織という意味だけではなく、各大学がそれまで有していなかった新たな専門分野の研究と教育を地域に提供すると いう役割をも担ってきている。新課程の位置づけと将来展望を提起する場合も、多様な専攻・専修を一括りにして、また全国一律のものとして打ちだそうとするのではなく、学部 構成も地域ニーズも異なる全国の各大学がそれぞれの事情に即した改革論議を展開できるような方向での論議と問題提起を期待したい。
 その際に、教員養成課程は大学院修士課程の整備が行なわれてきたにもかかわらず、新課程は未だに取り残されたままである現状を改善すべく、新課程に接続する大学院の設 置を早急に実現できるような方向での論議を期待したい。
(3)  平成10-12年度にかけて実施された、いわゆる「5000名縮減」政策下で、全国の教員養成系大学・学部における新課程の組織上の再編も行なわれてきた。したがって、新たに再編された多くの新課程組織では未だ卒業生を出すに至っておらず、再編後の新課程 に関するなんらかの評価もまた一律に下せる段階にはないと考える。にもかかわらず、現時点で大きな改編を一律に提起することは大学の社会的責任という点からも拙速のそしりを免れえないのではないかと考える。そのことを念頭においた慎重なる論議を期待したい。
2.  「学部の統合・再編」問題に関しては、「組織・体制(案)」の「3.対応策を検討するにあたっての観点」でも言及されているように、「教員養成学部の地域への果たすべき役割」を重 視した論議をすべきであると考える。
 教員養成系大学・学部が存在する各地域ニーズに対応して、個性ある教員の養成と現職教員の再教育機会の提供を図ることは、今後さらに一層充実させていく必要があると考える。 そのことは、平成9-11年にかけて公表された三次にわたる教育職員養成審議会答申においても強調されていたことであり、本委員会としては、次のような諸点の配慮をあらためて望 むものである。
(1)  上記の教養審答申を受けて、現在、各教員養成系大学・学部においては、地域ニーズ に対応した教員の養成と再教育のシステムづくりに取り組んでいるところである。とりわけ現職教員の再教育システムの確立は、地域のニーズや実情に対応した多様な取り組みが活発に展開されてきているところである。したがって、現時点における安易な「学部の統合・再編」論議は、それらの取り組みを阻害しかねないと考える。慎重な論議を期待したい。
(2)  21世紀を迎え、大学審議会答申などでも新たな大学像が提起され、今後はより一層研究や教育面での地域貢献が求められるとされている。全国の各地域に存在する国立大学の果たすべき役割とその重要性が高まってきているなかで、教員養成系大学・学部もまた学校の教員及び社会のさまざまな分野における教育指導者の養成と再教育を担う責任組織としての在り方が問われているところである。そうした地域における国立大学の役割と責任という観点からも論議を期待したい。
(3)  また、各分野でグローバリゼイションが進む中で、「地域に根ざす教育」として地域の自然や地域社会の歴史や伝統や文化、住民意識や慣習や社会システム等の地域の特性 に立つ教育が求められている。「総合的な学習の時間」の教育はまさにそれを目指している。体験的自然認識・社会認識・生活認識に立つ、生きた学習の展開と「地域社会を生きる者が国家社会を生き人類社会を生きる」という考え方からである。全国各地域に存在する国立大学は、地域に根ざす教育を推進する教員養成を目指して、これまでもその役割を果たしてきたし、今後ますますその重要性が増大している。
 また、最近、「開かれた学校」として地域住民や保護者の教育要求に応える学校教育に加えて、地域住民や保護者と共につくる学校教育の創造が要求されている。それを推進する教員の養成には、各地域の国立大学は不可欠な存在である。
3.  総合・複合大学における教育学部の役割という観点からの議論も期待したい。総合・複合大学での一般専門学部においては、それぞれの地域における中・高等学校に多くの教員を送 り出してきている。その教員養成に教育学部は責任組織としての役割を担ってきており、今後は学部段階ばかりではなく大学院段階までも視野に入れた教員養成機能の充実が必要である と考えるならば、一般専門学部卒業生で教職を志望する者の教育系大学院への積極的受け入れと養成教育も質量ともに整備していかねばならない。「組織・体制の在り方」に関しては、そうした観点からの論議も期待するものである。

U. 次に、「附属学校の果たすべき役割について意見のまとめ(要旨)」(以下、「附属学校(要旨)」と略称する)に対して意見を申し述べる。附属学校の現状認識の点で、大学・学部との共同研究体制が十分に確立していないことや、いわゆるエリート校化した弊害が生まれていることな どの指摘は重要であると考える(ただし、いわゆる「エリート校化」の問題に関しては、感覚的な決めつけではなく、もう少し実態を正確に把握したうえでの論議を望みたい)。また、学 校評議員の積極的導入や情報公開の推進などの点でも、積極的に対応していかなくてはならないという指摘も重要であると考える。
 それらの諸点に関して積極的に改善していく観点に立って、以下の問題について意見を申し述べる。

1.  現在の附属学校園は、教育実習校や研究開発校という役割、そして各地域の教育水準の維持向上に果たす役割を担い、期待されてもいる。それらはいずれも重要な役割ではあるが、 実際にはそのことが過重な負担をもたらしており、かつ具体的な役割遂行にあたってはある種のジレンマを抱え込むことにもなってきている。例えば、教員養成教育も体験的学習が重視さ れ、学生たちが年間を通してさまざまな形で附属学校園の実践現場に参加していくようになってきたが、それらを受け入れる教育実習校としての役割を重視するならば、必然的に附属学校 教職員の研究開発面に向けるエネルギーは小さくならざるを得ないのである。
 こうした現実の中にある附属学校園を今後どのような位置づけの下で整備・充実させていくのか、附属学校園の教職員ともコミュニケーションを図りながらの根本に立ち返った 論議を期待したい。その方向性が明確にされることによって初めて、入学者選抜の在り方も改善の基本方針が定まってくるのではないか。
2.  附属学校園の規模や同一学校種複数学校の見直し、あるいはまた大学・学部からは遠隔地にある附属学校園の大学・学部との結びつき方の在り方なども論点になっているが、その点 を考える上では、これからの教員養成系大学・学部の果たすべき地域貢献の観点は欠かせないと考える。例えば、教員養成系大学・学部に関しては現職教員の再教育機会の提供、一般大学・ 学部としても社会人の受け入れと夜間開講の提供などが今後さらに一層求められてくるに伴って、遠隔教育システムを利用したサテライト教室などの整備・充実が必要とされてくる。地 域の主な地点に点在している附属学校園の施設・設備は、そのような社会的要請に応えていく際の有益な人的物的財産ともなりうるのである。そうした観点からの論議も期待したい。
3.  今日、全国の国立附属学校園の施設・設備や学級定員、あるいは教職員の給与や勤務条件などは、一般の公立諸学校と比較して、劣悪な状況下にある。そのことは、例えば、附属学校 園を訪問した際に、近隣の公立諸学校の校舎と比較して見るだけでも一目瞭然である。また、学級定員も公立諸学校が段階的に減らしてきているにもかかわらず国立附属学校園は依然と して旧来のままである。教育実習の受け入れや研究開発に多大な貢献をしているにもかかわらず、施設・設備は貧弱であり、先導的研究・実践を行なうには一学級の児童・生徒数は多く、 過重労働を強いられている教職員の給与は一般公立諸学校よりも低い水準にある。そのことが、児童・生徒の附属校離ればかりか、公立と人事交流している地域での教職員の附属校敬遠さえ も生み出してきている。毎年度、全国国立附属学校連盟からは、施設・設備、人事・予算などに関して要望書が提出されてきているが、その中に記されている切実な声を汲み取りながら、 附属学校園の将来的展望を打ち出していくような論議を期待したい。
4.  今後、附属学校園が大学・学部と一体となって、共同研究活動を推進し、かつ学生・院生に対する教育活動の一部を担うようにするためにも、施設・設備や学級定員、あるいは教職員 の給与や勤務条件などの改善が不可欠である。例えば、附属学校園の規模の問題も、ただたんに学級数を減らすことだけを考えるのではなく、学級定員を柔軟に設定できるようにして集団 サイズとその教育効果の関係を実証していくような実験的試みを促す方向での解決の仕方が重要である。また、教室の広さに関しても、体格の向上した児童・生徒集団に対応できなくなっ てきており、さらにそこに教育実習や研究授業などで学生・院生・教職員が日常的に入り込むには、たいへんな窮屈さを感じさせるものとなっている。そのような教育実習校や研究開発校 としての機能向上の観点からも施設・設備計画のための調査と改善実施が求められている。

 本委員会では、現在、「変動期における教員養成システム構築に向けての政策研究」に着手し 始めたところである。これからの社会に対応した教員養成機関の組織原理・教員養成カリキュラム・教員免許状制度などの開発に向けての総合的研究であり、国内の教員養成機関の実態とそこ での学生・教員の意識に関する調査、学校教員のプロフェッショナル・ディベロップメントに関 する調査、さらには諸外国における教員養成及び現職教育の制度・カリキュラムに関する調査な どを実施し始めている。その一連の研究作業結果を貴懇談会にも逐一提示しつつ、共に論議して いきたいと願っていることを最後に申し添えておきたい。

 以 上