「新しい「国立大学法人」像について」(最終報告)に関しての国立大学協会会長談話

平成14年4月19日
国立大学協会
長 尾  真

1. 国立大学協会のこれまでの努力

 国立大学協会は、国立大学の法人化に関し、平成12年6月の第106回総会において、「独立行政法人通則法をそのままの形で国立大学に適用することに強く反対」し、設置形態検討特別委員会を設置してあるべき姿について考え方をまとめる一方、これを踏まえて文部科学省の調査検討会議に積極的に参画し、本協会の意見を述べるとともに、各方面に対し政策提言を行ってきた。
その結果、昨年9月末に出された調査検討会議の中間報告は一定の評価ができるものとなったが、なお不十分な点については意見を提出するとともに、調査検討会議においてもあるべき姿について最終報告書に盛り込まれるよう、最大限の努力をしてきた。

2. 最終報告に対する評価

 今回調査検討会議がまとめた最終報告による国立大学の法人化は、現在進められつつある国立大学の再編・統合などとともに、戦後日本の大学制度改革の中でも特筆すべき大きな改革である。特に法人化は、国立大学に法人格を与え、大幅な規制緩和と大学の裁量の拡大、さらには学外者の意見や第三者評価に基づく競争原理を導入するなど、これまでの発想を超えている。また、その目指すところも、国の予算による所用の財源措置を受けつつそれぞれの自己責任を一層明確にし、その自主性・自律性によって教育研究の高度化と国際的なレベルにおける発展を可能にしようとするものである。
 法人化に関する最終報告においては、中間報告からかなりの改善があった。例えば、中期目標は、文部科学大臣が定めるとはいえ、大学側がその基本的な目標に基づいて提出した原案を十分尊重して定めるための制度的な担保が加えられている。また、法人の責任者である学長も、学内の選考機関における選考を経た者について文部科学大臣が任命するなど、大学の意向を尊重するとしている。さらに、組織業務、人事制度においては、多くの重要な部分は実質的に各大学の規則レベルに委ねられることになった。これらは、法人化が大学の自主性・自律性の発揮をねらいとしている主旨からして、妥当なものである。
 国立大学職員の身分については、「非公務員型」とされた。これによって教員の活動についての自由度が高まるほか、能力・実績に応じた職員の処遇など、多様な可能性が開かれよう。また、「非公務員型」であるとはいえ、退職手当の期間通算や医療保険、年金、宿舎などについて、国家公務員と同じ扱いにするなどの点も評価できる。ただ、各大学で就業規則等に定める内容、職員の採用方法や給与基準の決定、大学間等の異動問題など、今後関係者において早急に詰めなければならない諸課題も数多く存在する。

3. 国立大学協会の考え方

 戦後の大学改革による新制国立大学は、日本の復興と発展の原動力となり、日本が世界の大国として活躍するための基礎を築くなど、大きな貢献をしてきた。
それから半世紀を経て今回まとめられた法人像は、全体として見るとき、21世紀の国際的な競争環境下における国立大学の進むべき方向としておおむね同意できる。
国立大学協会は、この最終報告の制度設計に沿って、法人化の準備に入ることとしたい。
 ただ、このような抜本的な制度改革の実施には、拙速はあくまでも避けるべきであり、文部科学省をはじめ政府においては、各国立大学が混乱なく国立大学法人に移行し、自主性・自律性を十分発揮しながら日本の高等教育と学術研究の更なる発展に大きく寄与していけるよう、最大限の誠意ある適切な対応をしていただきたい。特に法人化後においてはもちろん、移行に際しても、各国立大学の意向と自主性・自律性を十分に尊重し、各大学が個性の輝く大学としてより良い発展をするよう、財政面を含め支援の充実を強く要請する。
なお、国立大学の職員の身分の問題については、これまでの経緯もあり、職員が安心して職務に専念できるよう、法人への移行段階も含め十分配慮することは、文部科学省の責務であることを付言しておきたい。

4. 国立大学協会の今後の取り組み

 今回の最終報告には、国立大学法人の基本的な枠組みとして法令で明記する事項から各大学の規則等に委ねるもの、関係者の共通理解を求めるものなど多様なものが含まれている。政府においては、関係法令の策定作業等に際して本協会の意見を聞くなど適切な判断のもとに、大学の自主性・自律性を殺ぐことのないよう、配慮されることを要請する。今後国立大学協会においても、真に自主性・自律性をもてる国立大学法人が実現するよう、法制化作業の過程はもとより、その後のあらゆる段階の諸側面についても引き続いて検討し、意見を述べ、意義ある法人化の実現に努力を続けていく所存である。各大学においても、これまでに確立してきた学問の自由を守りながら、教育・研究の更なる発展に向けて努力を続ける必要がある。
昭和25年7月に発足した国立大学協会は、国立大学が法人化することにより、今後は各国立大学法人の全体としての連絡調整や共通課題への対応等の機能をこれまで以上に適切に担っていく必要があるため、我が国の高等教育・学術研究の発展に寄与する協会として生まれ変わるべく、その在り方について早急に検討を開始したい。