国立大学法人制度の適切な運用について(要請)

平成15年7月18日
国立大学協会
会長  佐々木 毅

 本協会におきましては、国立大学法人法の成立を受けて、去る7月14日の臨時総会において、法人化に当たっての国立大学の決意を述べるとともに、政府や社会に対し、新しい国立大学に対する理解と協力を要請する本協会としての見解をとりまとめ、同日別添(1)のとおり公表いたしました。
 本協会としては、法人化の趣旨が適切に実現されるかどうかは、各法人の努力と工夫を支える政府における制度の運用に係っているものと認識しております。このため、見解においては、法人化に際しての国の責任と国に対する要請事項を取り上げ、さらにこのことに関し「国立大学法人制度運用等に関する国に対する要請事項等」を具体的にとりまとめ、添付しているところであります。本協会としては、今後とも本制度の運用に関して強い関心を持ち、あらゆる機会を通じて意見を述べ、提言し、努力してまいりますので、政府におかれては、本制度の適切な運用に特段の意を用いられるよう、要請いたします。
 なお、臨時総会においては、以上の要請にも関連して、政府との間で協議の場を設定することについても、併せて確認をいたしました(別添2)。ついては、趣旨ご理解の上、協議の場の設定とその運営に関してもご配意くださるよう、お願いいたします。
[要望先:文部科学大臣 遠山敦子]

別 添(1)
国立大学法人化についての国立大学協会見解

平成15年7月14日
国立大学協会

1.はじめに
 我が国において国立大学の改革の必要性が指摘されて久しいが、とりわけ最近の数年間、国立大学の設置形態に関する検討が進められ、このたび、国立大学法人法が成立した。これによって、平成16年4月から国立大学は国立大学法人となることとなった。これは我が国の国立大学制度にとって極めて大きな制度改革である。                   
 国立大学協会(以下、「国大協」という。)は、国立大学の法人化の問題について一貫して審議検討を重ね、我が国の高等教育研究の一層の充実発展という視点に立って、適宜意見を表明してきた。国立大学法人法の成立に当たり、国大協として、国立大学の法人化に際しての基本的立場を明らかにするとともに、国立大学法人制度の発展に向けた国のしっかりとした対応と国立大学に対する社会の一層の理解と支援を要請するため、ここに見解を表明する。
2.国立大学の法人化に至る経緯
 国立大学の法人化に関しては、以前から国立大学の改革提言の中で検討の必要性が指摘されてきたが、行財政改革が重要な政治的課題となる中で、平成11年4月に、「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る」と閣議決定され、平成12年7月、文部科学省は、独立行政法人制度の下で、大学の特性に配慮しつつ、国立大学および大学共同利用機関を法人化する場合の制度の具体的な内容について調査検討を行うことを目的として、「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」(以下「調査検討会議」という。)を発足させた。国大協は、独立行政法人通則法を国立大学にそのままの形で適用することは不適当であるとの立場から、設置形態検討特別委員会を設けて国立大学の法人化に対する考え方をまとめ、積極的に意見を述べてきた。
 調査検討会議は、平成14年3月26日にその最終報告を公表したが、これに対して、国大協は、同年4月19日の臨時総会において、「今回まとめられた法人像は、全体として見るとき、21世紀の国際的な競争環境下における国立大学の進むべき方向としておおむね同意できる」とした上で、「国立大学協会は、この最終報告の制度設計に沿って、法人化の準備に入ることとしたい」旨の会長談話を国大協の基本姿勢とすることを了承した。そして、今後の対応として「国立大学法人化特別委員会」と「国立大学協会の在り方検討特別委員会」を設置することとした。
 文部科学省は、その後、法案作成作業に入り、平成15年1月に「国立大学法人法案の概要」を公表した。そして、平成15年2月28日には、「国立大学法人法案」が閣議決定されて国会に上程され、同法は同年7月9日に成立したのである。国大協は、法案が調査検討会議の最終報告が描く「国立大学法人像」に沿っているかという観点から検討を行い、同法案について、一部最終報告から変わったところもあるが、実質的には「最終報告」の趣旨を踏まえていると判断してよいとの結論に達した。
3.国立大学法人法の概要
 国立大学法人法の下で、国立大学は、従来の国の行政組織の一部という位置付けから国から独立した法人格を有する存在となる。国立大学は、学長および理事を中心に自主的・自律的に運営されることになるのである。この関係で、各国立大学法人には、経営に関する重要事項を審議する経営協議会と教育研究に関する重要事項を審議する教育研究評議会とが設置される。そして、大学の運営に社会の声を適切に反映し、社会に対する説明責任の履行に資するように、経営協議会の構成員の2分の1以上は学外者でなければならないものとされている。また、国立大学の職員の身分について非公務員型が採用された。
 国立大学法人法は、広義の独立行政法人制度の枠組みに沿って、中期目標・中期計画と評価委員会による評価のシステムを採用している。文部科学大臣が中期目標を示し、これに基づいて国立大学法人が中期計画を作成し文部科学大臣の認可を受けるのであるが、文部科学大臣の示す中期目標については、各国立大学法人の意見を聴いてこれに配慮するものとされている。また、この期間終了に当たり、その間の運営実績について国立大学法人評価委員会等の評価を受けることとなる。
 国大協は、法制化に当たって、国立大学法人の根拠法、法人化後の国立大学の設置者、および学部、研究科等の省令等による明確な位置付けと評価の在り方といった諸点にとりわけ大きな関心を払ってきた。法人の根拠法に関しては、国立大学法人法は、独立行政法人通則法とは別個の法律として位置付けられ、国立大学法人には、独立行政法人通則法がそのままの形では適用されないことになっている(広義の独立行政法人)。国立大学法人法の下では、「国を国立大学の設置者とすること」および「学部等の大学の基本的組織を省令等により規定すること」は、いずれも法制上の理由を根拠に採用されていない。
 また、国大協が国を設置者とすべきとしたのは、国立大学の担うべき高度な教育研究の確実な実施に対して、法人化後も引き続き国が責任を負うことの明確化を求めようと考えたためであった。この点に関しては、国立大学法人法において、国立大学の設置が法律により規定されるとともに、国立大学法人と国立大学の一体的な運営が確保されており、また、国が国立大学に対して引き続き財政的責任を果たす趣旨が示されている。さらに、学校教育法の改正規定により、国立大学における教育研究は国と国立大学法人とが協力して推進することが明示されており、これらにより国立大学に対する国としての責任が明確に示されている。国大協が学部等の組織を省令で明示すべきとしたのは、国立大学法人の業務の中核である教育研究の基本的な内容や範囲を省令において明示することにより国の責任を明確にしようと考えたためである。これに対して、学部等の組織は省令で規定されないこととされたが、文部科学大臣が示す中期目標においてこれらを明確に記載することにより、国の責任は同様に果たされなければならない。
4.21世紀に向けて国立大学が担うべき役割
 国立大学は、これまで人材の育成と学術研究を通じて社会の知的拠点としての役割を担い、我が国の発展を強く支えてきた。今日の我が国社会の大きな変革の中で、国立大学に対して改めて社会から大きな関心と期待が寄せられている。すなわち、国立大学は、自主的・自律的な大学運営にふさわしい体制を構築して、その運営の効率性を高め、教育・研究環境を質的に向上させるとともに、真に学生のためとなる教育と世界的水準の多様な研究の展開をはかり、世界的な競争力を持ち、地域に貢献する大学として個性輝く大学を作り上げていくことが強く要請されているのである。これに対して、国立大学は、法人化の趣旨を踏まえて、社会に開かれた透明性の高い大学運営の下で、社会の多様な要請に的確に応えて、教育研究の柔軟かつ活発な展開を実現していく所存であり、国立大学の全構成員は、この点を十分に認識して、最大限の誠意ある努力をしなければならない。
 国立大学は、国立大学法人制度の下で、国の予算措置を受けることを十分に認識しており、各国立大学は、納税者たる国民や社会の意見を適切に大学運営に反映させ、教育研究の一層の充実推進、および社会貢献の一層の促進を行い、国立大学としての社会的責任を果たしていくべきである。
 職員の身分については、非公務員型が採用され、労働基準法その他の労働関連法令の適用を受けることとなるが、役員と教員・職員は協力して、こうした法制度の下で、教育研究の活性化・高度化のために努力していかなければならない。
5.法人化に際しての国の責任と国に対する要請
 国立大学法人法は、この法律の運用に当たっては、国として、国立大学における教育研究の特性に常に配慮しなければならない旨を規定している。すなわち文部科学省だけでなく財務省や総務省など、すべての国の機関は、この規定を始めとする重要な諸規定を誠実に遵守する責任がある。たとえば、国立大学法人制度の下では、国立大学に対する国の予算による財源措置が前提とされており、またその際、国は法人の運営における自主性・自律性に十分に配慮しなければならないのである。 
 国大協は、法人化に当たって、法人化の趣旨を適切に実現するために、国に対して別添の「国立大学法人制度運用等に関する国に対する要請事項等」に示す諸点の要請を行うこととした。とりわけ、今後の政省令等の制定に際して、国立大学における教育研究の特性に配慮し、国立大学法人の自主性・自律性を十分に尊重することを改めて要望する。具体的には、明確な内容の政省令等を制定すること、中期目標の作成および中期計画の認可にあたって、文部科学大臣は教育研究の特性に十分に配慮し大学の自主性・自律性を最大限尊重すること、国立大学法人評価委員会の構成員、評価の基準・方法に関して教育研究の特性に十分に配慮するとともに、評価の実施が大学の教育研究にとり過大な負担とならないようにすることなどである。とくに、国立大学法人評価委員会については、教育研究にかかる評価の困難性に十分に配慮するとともに、国はその評価結果を適切かつ慎重に取り扱うことを求める。さらに、国立大学の自主的・自律的な教育研究の発展を図るためには財政基盤を確立・強化することが不可欠の条件である。この面で国の特別の配慮を強く求めるものである。また、日常的な運用面で、法人化の趣旨を十分に踏まえて国立大学法人の自由を最大限に尊重する文部科学行政の立場を確立することを要望する。
6.おわりに
 今後、国立大学は、新たな国立大学法人制度の下で、学問の自由や大学自治の理念を踏まえながら、各国立大学法人の自己責任において、国民や社会の期待に応える国立大学として発展するため、誠心誠意取り組んでいく所存である。もちろん、その前提として、一人一人の教員、職員の意識改革が不可欠である。国大協としては、国立大学の法人化に合わせて、新たな連合組織として「新国立大学協会(仮称)」を発足させて、自主的・自律的に運営される国立大学が、教育・研究および社会貢献に関する多種多様な活動において、質の高い成果を挙げられる環境を作りあげていきたいと考えている。
 最後に、我が国の高等教育の発展と先進的な学術研究の展開の中で、今後とも国立大学に期待される重要な役割に十分に配慮して、国が高等教育に対する財政的支出の充実を始めとして、国立大学法人に対する強力な支援を行うよう重ねて要望する。また国立大学法人の発足に際して、新しい国立大学に対する社会の理解と協力を期待したい。

別 添
国立大学法人制度運用等に関する国に対する要請事項等
(1)明確な内容の政省令等の制定実現
1. 政省令等の確定にあたっては、国立大学法人法と最終報告(調査検討会議「新しい「国立大学法人」像について」)の趣旨に則り、国立大学における教育研究の特性に配慮し、国立大学法人の自主性・自律性を十分に尊重した、明確な規定とすること。
2. 国立大学法人法の施行に必要な政省令等の詳細制度設計については、法律制定後できるだけ早めに国大協と意見交換をすること。
3. とりわけ、国立大学法人評価委員会に関する規定については、上記1・2の点について十分に配慮すること。
(2)法人への移行過程における国の措置等
1、法人への移行準備に必要な経費の確保等
労働安全衛生対応への経費、財務会計システム等の構築のための経費などを措置すること。
出資財産(土地・建物等)の評価等に伴う諸経費を措置すること。
国の組織から国立大学法人へ移行することに伴い、その円滑な実施が図られるよう、国として万全の措置を講ずること。
2、職員の適切な人事交流システム構築への協力
各国立大学法人の人事権のもとで、職員の人材活用と組織活性化のための適切な人事交流システムの構築や国の機関との人事交流の円滑な実施への協力。
(3)法人移行後の制度運用に関する事項
1、高等教育への公財政支出の充実
中教審で検討中の高等教育のグランドデザインに基づく公財政支出の拡充
基盤的研究・基礎科学的分野への基盤経費の充実
2、法人の財政的な自律性を高める観点からの適切な運用
剰余金の処理における法人の経営努力の幅広い認定
中期計画終了時の積立金の処分における法人の立場の最大限の尊重
効率化係数等による運営費交付金の一律減額措置の排除
運営費交付金の算定基準の明確化
国立大学の存在意義を踏まえた適切な学生納付金の標準額の設定等
土地処分収入の一定額の当該法人への留保
収益を伴う事業実施に関する法人の判断の尊重
寄附金、受託研究経費等の運営費交付金の算定からの除外
3、法人の実状に応じた確実な財政措置
労災保険、雇用保険、各種損害保険等の保険料、各種手数料、監査に要する経費、事務系職員の採用試験実施経費など、法人化に伴う必要経費の確保
設備及び施設の維持・保全に要する経費の運営費交付金への反映
附属病院の施設整備に充てる資金の国立大学財務・経営センターからの円滑な借り入れの確保
寄附金税制を含む現行の税制面での取り扱いの継続
4、国による各種損害の補填システムの整備
自然災害及び火災等による被災施設等の復旧補填システムの確立(施設災害補助金等)
通常想定し難い教育研究中の事故・医療事故等による賠償金等の財源補填への配慮
5、文部科学省の国立大学法人行政体制の整備等
法人化された国立大学に対する大学の自由度を尊重した文部科学省の新しい責任体制等の整備
中期目標・中期計画を前提とした事後評価を尊重する具体的な事務処理体制の整備
6、中期目標・中期計画における大学の自主性・自律性の尊重
文部科学大臣が中期目標を定めるに当たって、大学の意見の最大限の尊重
文部科学大臣が中期計画を認可するに当たって、大学の自主性・自律性の最大限の尊重
中期計画について、大学の教育研究の特性を踏まえ、詳細な内容指定を排除
年度計画の取り扱いについて、大学の教育研究の特性に十分配慮
中期計画期間中における弾力的な計画変更を可能とする運用
7、国立大学法人評価委員会等による評価とその評価結果の活用方法
国立大学法人評価委員会のもつ重要な役割に鑑み、評価委員の構成、評価の基準・方法等についての十分な配慮
国立大学における教育研究を伸張する適切な評価の実施
大学の教育研究の特性を踏まえた柔軟かつ多面的な評価の実施
大学に過度な負担をかけない評価方法の実施
評価結果に対する大学の意見申し立て等の制度化
評価結果の資源配分活用への慎重な配慮
年度ごとの評価結果を資源配分に活用することを排除
8、国立大学の特性を踏まえた国立大学行政の確立
新連合組織(新国大協)と文部科学省との定期的な意見交換システムの構築
監事の選任における透明性の確保
9、その他の要望
教員の労働時間への専門業務型裁量労働制の適用(制度上の手当が必要な場合にはその手当)
文部科学省や会計検査院への定例報告(計算証明等)、概算要求時の提出書類等の抜本的簡素化や大幅な事務負担の軽減

別 添(2)
国立大学法人制度運用に関する協議の場の設定について

平成15年7月14日

国立大学法人制度の円滑な運用を期して、政府との間で、恒常的な協議の場を設けることとする。
国立大学協会と文部科学省の関係者で構成する。ただし、必要に応じ、他の省庁関係者や国立大学法人評価委員会関係者の出席を求めることもできるようにする。
協議の場は、国立大学協会が主宰する。
国立大学法人制度の円滑な運用に資するあらゆる問題を対象とする。
国立大学法人法の成立後、速やかに設置する。