日本の将来と国立大学の役割 >> 教育機会の均等を保証するものとして
3 教育機会の均等を保証するものとして

 国立大学はまた、家庭の経済背景、あるいは居住地域にかかわらず、様々な領域での教育機会を提供することによって、教育の機会均等を保証し、また優秀な能力が埋もれることのない社会をつくるために重要な役割を果たしている。

● 低所得家庭出身の学生は国立大学に在学している

 親の所得別に、どのような学生が大学に在学しているのかを、国立大学、公立大学、私立大学別に推計した。具体的には全国の世帯主45−54歳の家庭を、所得の低い方から5つの階級にわけて、そのそれぞれの家庭の出身者がどのように大学に在学しているかを算出した。
  大学教育について親の所得の影響が全くない、完全な機会均等の場合には、各階層出身の学生は、全く同じ20%を占めるはずである。
  しかし分析の結果をみると(右のグラフ)、私立大学では最も所得の高い階層の出身者が24%を占めており、最も低い階層の出身者は15%に過ぎない。これに対して国立大学では、最も所得の低い階級の出身者が24%で最も多く、最も所得の高い階層の出身者は16%にとどまる。
 大都市の一部国立大学の親の年収の高いことがしばしば指摘されるが、全国的にみれば、国立大学が、低所得の家庭の進学機会の供給にきわめて重要な役割を果たしていることがわかる。

● 適性に即した教育機会

 大学教育の機会均等は、単に大学への進学が許されるだけでなく、本人の適性にもっとも適合する分野で勉強する機会が与えられることによって保証される。社会の側からみれば、それを通じて、優れた才能を有効に活用することができる。
 そうした視点から専門分野別に、出身家庭の所得別の学生数分布を集計した。理学・工学系の学部のみをとって計算すると、国立大学において低所得家庭の出身者がしめる割合は、私立のそれの2倍近いことがわかる。
 さらに医歯系の学部だけをとってみると、国公私ともに高所得家庭の出身者が多くなる傾向があり、とくに私立大学では、全学生の6割が、所得上位5分の1の家庭の出身者となっている。しかし国立大学ではそれが31%に過ぎない。他方で、低所得家庭(所得が下から5分の1)の学生は国立大学では18%に達している。
 国立大学の存在なしに、優れた人材をこうした分野に振り向けることは難しいというのが現状である。





図表3-1 学生の出身家庭所得別分布



図表3-2 大学院生の出身家庭所得別分布

● 大学院への進学機会の保証

  知識社会の進展にともなって拡大しつつある大学院段階での教育機会の均等も大きな問題である。大学院修士課程の学生を前と同様な方法で出身家庭の所得によって分類してしめした (左図)。
  国立大学の大学院生には、私立大学よりも明らかに低所得階層の出身者が多く、この傾向は理工系でも同様である。
 またことに、大都市圏以外の国立大学の理工系博士課程の学生には、低所得階層出身者が多い。

 


図表3-3 県別の平均所得と国立・私立別大学進学率

● 進学機会の地域格差を埋めているのは
  国立大学
 日本の高等教育は広く普及してきたとはいえ、地域別の格差はまだ著しい。大都市圏以外の地域では、進学率は低く、また所得による制約も小さくない。
  全都道府県における国立大学への進学率(18歳人口のうち国立大学に進学したものの割合)と私立大学への進学率を算出し、それを平均県民所得の順に並べて図にプロットして示した(左図)。
 私立大学への進学率(青い点)は、平均所得の高い県で高くなる傾向があり、右上端の東京都は全国で最も平均所得が高いが私立大学への進学率も40%を超える。逆に所得が低い県では私立大学への進学率は10%台に過ぎない。
 他方で国立大学については、所得の低い県で進学率が高い。逆に所得の高い県ではむしろ私大進学率が高くなる。これは一つには所得の高い大都市圏においては、人口が大きいにもかかわらず、国立大学の収容力が低いことを反映している。
 いずれにしても、私立大学は、大学進学機会に選択の幅を与え、とくに大都市部での多量の進学要求に応えている。これに対して、国立大学は地域あるいは所得の差にかかわらず、大学への進学機会を全国的に下支えする役割を果たしているといえよう。  

資料出所:図表3-1、3-2は平成8年度学生生活調査から集計。 図表3-3は学校基本調査ほから推計。 


<<--back

Copyright (C) 2004 社団法人 国立大学協会. All Rights Reserved.