提 言 の 趣 旨

 国立大学協会では、本年6月、第2常置委員会の下に「入試改革に関する検討小委員会」を設置し、下記の2つの問題について検討を開始した。
 第1は、学生の学力低下問題への対応である。学生の学力低下はかねてより大学関係者にとって懸案となっていたが、事態が深刻さを増していることから、国大協としては、具体的な対応をとるべき緊急の課題と判断した。この対応が遅きに失するようであれば、大学の教育、研究に支障を生じるばかりでなく、わが国の産業、経済、社会にも、今後憂うべき事態を招くと危惧されたからである。受験競争の過熱はもとより望ましい状況ではないが、学力低下もまた放置するわけにはいかない問題である。
 第2は、大学入試における国立大学の使命とは何か、即ち社会的アカウンタビリティの問題である。大学教育の量的拡大、大衆化の進展にともない、大学設置基準の改正等制度的な整備も着々と進められてきた。大学入試についてもようやく行政的な方向転換がはじまり、広い視野からの取り組みがはじまった。このことは、国として歓迎すべきことであるが、大学大衆化への行政のスタンスが明確になるにつれ、国立大学が選択すべき方向と行政の立てる指針との間に微妙な食い違いを生じてきたことも事実である。そのため、国立大学は自らの使命と責任において、大学入試における「国立大学の指針」を検討し、それを明らかにすべき時期にきたと判断した。
 これまでの大学入学者選抜の改善の歩みを考えてみると、それはわが国の大学入試が過熱化し、しかもその試験方法が学力偏重、学科試験一辺倒になっていることを是正する目的で大学入試の多様化・多元化が図られ、推薦入学の普及のほか、小論文、面接、実技試験などの導入がなされてきた。しかし、一方では大学入試の多様化・多元化とは入試の軽量化すなわち受験教科・科目の削減につながり、このことは高校生の学習が受験教科・科目に特化し、本来ならば高校生として身に付けるべき基礎的学力を修得する機会を奪っているのではないか。事実、多くの高等教育機関で前述の入学者の基礎学力低下が指摘されている。もし、このように大学入試が高等学校教育を規定し、また歪めているのであれば、科学技術創造立国を謳うわが国の将来に大きな災いと影を落とすことは必定であり、この際、国立大学はその現状を是正する必要があるのではないかと考えた。
 こうした認識のもとに検討をすすめ、このほど、国大協として1.多様化する高校教育への対応、2.大学入試センター試験の改善、3.個別大学入試の改善の3項目に分けて種々の提言を取りまとめた。
 特に大学入試センター試験のあり方については、高校生として身に付けるべき基礎的学力を測るために5教科7科目の受験を課すことを提言している。これにより国立大学への志願者の減少を危惧する意見のあることも予想されるが、このことは国立大学の責務としてわが国の教育水準を維持するために必要な措置と考えている。
 科学技術の飛躍的発展は人類社会の進歩とともに豊かな文明をもたらした反面、生物の生存をも脅かす負の遺産とも言うべき自然環境破壊をもたらした。それを直視すれば、今後は高等教育における受験者の文系・理系といった入試科目の相違はありうべきでなく、少なくとも高等教育を受けるに十分な基礎学力はすべてに共通するべきであり、当然、今後はその方向で是正されるものと考える。
 最後に是非とも、この提言が国民各層に広く読まれ、我が国の大学入学者選抜の改善の一助となることを期待し、その実現を強く望むものである。

 

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