60号 LEADER’S MESSAGE 特集【進化し続ける大学図書館】

空間を超えて懸け橋となる大学図書館


 
 
 
 
 
信州大学長
濱田 州博

信州大学は、長野市、松本市、上田市、南箕輪村の4 市村に5 キャンパスを有し、8 学部・大学院5 研究科を有する総合大学であり、人文学、教育学、経法学、理学、医学、工学、農学、繊維学の幅広い分野で教育・研究を行っている。長野県4 地域、北信、中信、東信、南信それぞれに点在しており、言ってみれば「信州」全体がキャンパスと呼べる。
自然豊かな環境でじっくりと物事に取り組めることから、教育研究、ものづくり、文化の醸成等、様々なことに打ち込めるのが、「信州」の特徴である。
信州大学は、信州の豊かな自然、その歴史と文化、人々の営みを大切にし、「信州」を活かした種々の取組を行っている。附属図書館もキャンパス分散型大学という物理的形態と「信州」の特徴を意識した運営を行っている。

信州大学附属図書館の特色

信州大学附属図書館は、中央図書館と教育、医学、工学、農学、繊維の5 つの学部図書館、計6 館から構成され、各学問分野に必要な学術情報の体系的な整備、先進的な教育・研究環境の提供を目標に、各館の特徴を生かしつつ総合的なサービスを展開している。
学術情報は、どのキャンパスからでも利用できるよう、早い時期から電子ジャーナルや電子ブックなど、電子コンテンツの導入を進めてきた。電子コンテンツの多くは、自宅など学外からも利用可能となっている。さらに、コロナ禍によって授業の大半がオンラインとなったことに伴い、より積極的に学習用コンテンツの電子版を導入してきており、2020 年度末現在、電子ジャーナル14,745 タイトル、電子ブック130,500 点を利用することができる。

学生の学びの場としての図書館

信州大学の学生は、1 年生は松本キャンパス、2 年生以降は各キャンパスで過ごすため、中央図書館では、1 年生を主
な対象として、授業外での学習支援(ピアサポ@ Lib)に、先輩学生・教職員との協働により取り組んできた。2011 年から数学や化学などの学習相談を始め、2013 年からはレポート執筆の支援も行っている。また、コロナ禍でキャンパスに来られなくなった学生のため、2020 年6 月にはオンラインでの支援も開始した。もともと、進学先の学部の教員や先輩と1 年生とをオンラインでつなぐ検討をしていたので、比較的早く対応ができたのは幸いであった。同様の学習支援は、理学部や、工学部図書館、農学部図書館などでも取り組んでいる。

研究情報の発信基地としての図書館

大学図書館は、学内の研究成果の発信(オープンアクセス)に加え、最近では研究データ管理(オープンサイエンス)の役割も担うようになってきている。
機関リポジトリや、研究者データベースをリンクさせた「SOAR」(信州大学学術情報オンラインシステム)の運用によって、2007 年の機関リポジトリ開始以来、約2 万件の研究成果を公開している。これらのシステムは、国立情報学研究所が開発・提供するJAIRO Cloud や、同所の研究データ管理基盤GakuNinRDM を活用しているが、試験運用や先行運用の段階から積極的に参画している。
また、現在、「信州大学オープンアクセス方針」を策定中である。世界中の人々がアクセスできるよう、研究成果(論文やそれに付随する研究データ)を公開することで、本学の研究上の目標である「地域と世界への発信」を達成し、オープンサイエンスにむけた国際的潮流に歩調を合わせていく。

地域に開かれた窓としての図書館

大学図書館は、地域に開かれた窓としての役割も担ってきた。法人化以前から地域の人々に図書館を公開し、2008 年以降は各キャンパスの近隣の市町村図書館と連携して、専門
的な資料の提供を行っている。同時に、学生たちからの要望が高い小説などの書籍は、市町村図書館から提供していただいている。2009 年には、松本市と連携した病院図書室
も設置した。
2016 年、県立の歴史館、美術館、図書館とともに「信州 知の連携フォーラム」を立ち上げた。いわゆるMLA 連携(Museum, Library, Archives)の枠組みで、長野県にお
ける知と学びに関わる文化施設が、信州における価値ある地域資源の共有化をはかり、新たな知識化・発信を通して、人々の学びを豊かにし、地域創生につなげていく方策について語り合う場である。地域資料のデジタルアーカイブズの構築や人材育成を協働して行っており、各館が所蔵する資料だけではなく、地域の人々が持つ記録や記憶の収集・保存も視野に入れ、知識循環型社会で活用される環境を共につくることを目指している。地域に根差した教育・研究機関として、大学が果たすべき役割は大きい。

「信州 知の連携フォーラム」関連機関の強み(例)

地域の過去を現在・未来へと架橋する

2017 年、信州大学に関わる歴史的資料を収集・整理・保存するとともに、公開・展示を行う体制を整えるため、附属図書館の下に大学史資料センターを設置した。
2019 年、信州大学は創立70 周年(前身校の一つである旧制松本高等学校は100 周年)を迎えた。信州の地に期待を
担って誕生した信州大学―。5 つのキャンパスに展開する8 つの学部は、それぞれの地域の人々や時代の要請によって設立された前身校の流れを汲んでいる。大学史資料センターでは、記念式典での展示や『信州大学歴史探訪マップ』の作成などを通じて、地域と共に歩んできた本学の姿を描き出した。これらの取組を通して、学生・教職員が大学及び地域への関心・愛着を深めるだけでなく、地域住民が大学に関心を持つきっかけにもなり、歴史(過去)を現在、さらに未来へとつなぐ学習・研究の場に附属図書館がなることを期待している。

このように、信州大学附属図書館では、学術情報収集だけではなく、情報発信、学びの場、地域との架け橋などとして
重要な役割を演じている。また、オンラインで人と人とをつなぐ中継基地となったり、オンラインによる学習・研究の基地局となったりしていくであろう。このような基地としての役割をすべての国立大学図書館が持ち、さらに連携することによって、大学間だけでなく地域間の交流を進めることが可能となる。Society5.0 において、図書館は、フィジカル空間だけでなく、サイバー空間でも重要な場として活用されていくであろう。