65号 Challenge!国立大学 特集【気候変動対策 -地球とわれわれの未来のために-】

岩手大学 東京工業大学 茨城大学 新潟大学 名古屋工業大学 総合地球環境学研究所(人間文化研究機構)

岩手大学

岩手大学環境マネジメント学生委員会「緑のカーテンづくり」に
よる気候変動対策

岩手大学環境マネジメント学生委員会(EMSC)は2008 年10 月に設立。岩手大学の環境マネジメントシステム(EMS)運営において、学生の立場から参画している公式の組織・構成員と位置づけられている(岩手大学「環境配慮への取組」:https://www.iwate-.ac.jp/about/management/environment.html)。

EMSC はチームごとに環境教育・省エネ省資源・廃棄物削減など様々な環境配慮活動を展開している(EMSC WEB サイト:https://emsc.jimdofree.com/)。特徴的な活動が岩手大学図書館西側壁面での「緑のカーテンづくり」である。2009 年度から開始。学生団体を支援する競争的資金を3 年間獲得した後、岩手大学のEMS 運営組織である環境マネジメント推進室予算から費用を支出して活動を続けている。推進室や技術部職員の支援を受け、西洋アサガオの種まきから始め、プランターへの植え替え、屋上からのネット設置と撤収までEMSC 内「グリーンキャンパスチーム」学生委員が行っている。学生主導の教職員との協働による気候変動対策で、岩手大学のEMS 運営・環境配慮活動における象徴的な活動である。

特に夏には西日で暑さが厳しくなる図書館西側に緑のカーテンを設置することで、壁面の温度低下がはかられる。計測では約10 度の温度低下があった。室内の冷房使用抑制や電気・化石燃料使用削減による二酸化炭素排出量削減の気候変動対策にもなる。

また、緑のカーテンは岩手大学内外の人々の目を引いている。緑のカーテンを見た盛岡市内の幼稚園長からEMSC メンバーが声をかけられ、園児への環境教育を始めるきっかけにもなった。緑のカーテンは環境教育の場としても活用されている。

緑のカーテンづくり


東京工業大学

グリーン・トランスフォーメーション・イニシアティブ(Tokyo Tech GXI)

カーボンニュートラルを目指しての取り組み 
東京工業大学は、ゼロカーボンエネルギーを用いたカーボンニュートラル(CN)技術開発による社会貢献を目指し、2021年6月にゼロカーボンエネルギー研究所(ZC研)を開設した。政府方針である2050年カーボンニュートラル(CN)実現のためにはグリーン・トランスフォーメーション(GX、緑転、CN化に応じた産業及び社会の構造の変化)が必須と考え、GX社会を先導する研究活動の推進とスタートアップの強化、産業や社会連携への実質化を進めるためにグリーン・トランスフォーメーション・イニシアティブ(Tokyo Tech GXI)事業を開始した。

Tokyo Tech GXI の特色
1. 同大学の約400 名のエネルギー関連研究者と約40社のエネルギー関連企業プラットホームとが連携した産学連携委員会(企業コンソーシアム)を組織し、オープンイノベーションによる課題解決のためのGX研究の推進・加速を行う。
2. GXのための炭素循環グリーン産業システムなどの実証研究、産学官・地域社会・市民と連携したエネルギーソリューション研究、社会経済学に基づくGX 化促進研究を展開する。
3. 産業や社会のCN 化に向けたGX 研究の知の拠点化及び新たな学術の創成を目指す。

期待できる成果・評価
1. 産学官連携によるCN研究のオープンイノベーション国際拠点化。
2. GX研究・実証プロジェクトを創生・推進し、気候変動対策へ貢献。
3. CN社会に向けたグランドデザインの明確化とその実現に向けた道筋・政策提言。

参考URL
[1]ゼロカーボンエネルギー研究所 http://www.zc.iir.titech.ac.jp/

[2]Tokyo Tech GXI http://www.zc.iir.titech.ac.jp/jp/GXI/


茨城大学

国内随一のカーボンリサイクル実験環境
脱炭素「日立」モデルを産学官で追究

茨城大学は2006年に地球変動適応科学研究機関(ICAS)を設立し、気候変動適応科学、サステイナビリティ学の組織的な研究・教育にいち早く取り組んできた。
ICASを改組して2020年に開設した地球・地域環境共創機構(GLEC)は、気候変動や水圏環境に関する長年の活動の実績が認められ、気候変動アクション環境大臣表彰も受賞している。

GLECなどが行った地球レベルの海面上昇リスクと適応策の評価研究の成果は、IPCC の報告書でも多数引用。あわせてGLEC内に設置している茨城県地域気候変動適応センターを中心に、地域レベルでの細かな適応計画策定支援・現地調査も進めているところだ。

また、近年は緩和策である脱炭素の技術・インフラ開発のための体制も強化している。理工学研究科(工学野)では、大気中のCO₂の「回収」、新たなカーボンニュートラル燃料の「合成」、それらの高効率な「利用」というカーボンリサイクルの実証実験を学内で実施できる国内随一の環境の整備を進めている。国内外の研究者や日立製作所等の企業、茨城県や日立市などの自治体と連携し、メタン・水素の混焼、液体燃料合成などの成果を生み出し、「日立」からの脱炭素地域モデルの発信を目指す。

適応策・緩和策の両面の強みを活かし、地域での調査・実験を積み重ねながら、今後も気候変動対策をリードする大学でありたい。

カーボンリサイクルの実験環境を学内に整備

理工学研究科(工学野)の田中光太郎教授。
背景に写るガス混焼の実験機器は国内に4台しかない。


新潟大学

太陽熱水素製造技術、および太陽熱・太陽電池・水電解の融合技術の開発

新潟大学における太陽熱利用分野では、熱により水を分解する触媒とソーラー反応器を開発し、現在、豪州のサンベルト(太陽日射の強い地域)において、豪国研CSIRO と連携して500kWth の実証試験を行っており、当該分野において世界を牽引している。

新潟大学では人工光源による世界最大級の30kWth 太陽集光シミュレータを設置しており、上記はそれを活用して開発された。また、太陽電池開発についても、タンデム太陽電池の高効率化に関する5 大学連携プロジェクトを牽引し、さらに、水電解による水素製造については、世界最小のエネルギーで水を電解することに成功、太陽電池と組み合わせて世界最高水準の太陽光- 水素変換効率(14%) で安定に水素を製造できることを実証している。このような背景から、「カーボンニュートラル融合技術研究センター」を組織し、太陽熱水素製造のみならず、太陽熱・太陽電池・水電解を融合した新しい技術開発にも取り組んでいる。

期待できる成果
例えば、海外サンベルトの太陽熱発電プラント用として開発している高効率蓄熱システムを太陽電池と融合させれば、太陽電池からの電力を電気炉で一旦、熱に変えて蓄熱し、夜間にこの熱を取り出して従来の方法で熱発電できる(蓄熱発電)。蓄熱システムは安価であり、高価なバッテリーを使うことなく24 時間、ソーラー電力が使えるようになる。このように技術を融合させることによって、国内・海外、大型・小型、昼間・夜間などの様々な場面に適合した新技術を生み出し、技術の社会実装を早期に実現することが期待される。

人工光源による30kWth太陽集光シミュレータ

カーボンニュートラル融合技術研究センター組織図


名古屋工業大学

CO2 排出を削減! カーボンニュートラル時代を支える
低温及び無焼成でつくるセラミックス

セラミックスは高温で焼いて作るのが常識である。焼けば当然エネルギーを消費し、CO₂が発生する。セラミックス製造で排出されるCO₂の約6割が焼成工程で生じる。2050年カーボンニュートラル社会達成に逆行した製法である。知識の活用で常識を打ち破ることをモットーとしている名古屋工業大学先進セラミックス研究センターでは、セラミックスを低温でつくる、さらに高次目標としては焼かずにセラミックスを得る方法を研究している。

焼かないからできることも沢山ある。焼かないメリットはCO₂の排出量削減、省エネ、低コストだけではない。例えば、これまで不可能だった素材(プラスチック、木、金属など)との複合化が可能となる。写真は樹脂製光ファイバーを無焼成セラミックスに包埋した光のオブジェである。これは単なる飾りだが、素材の組み合わせで新たな機能を得る可能性が予見できる。例えば、電子回路を組み込むなど色々な可能性がある。将来は3D プリンターと組み合わせて、宇宙で建物をつくることができるようになるかも知れない。

このような研究活動を通して、物だけでなく人づくりも行っている。学生からはこの技術を使って環境保護に役立つ材料のアイデアを提案してもらい、良い提案は本格研究のステージに進む。個々が問題を整理し主体的に研究することで、将来自らが新しい価値を創造し開拓して行ける研究者・技術者となるような教育体制になっている。また、同センターは日本一の陶磁器産地の中心センター(多治見市)にある。地元企業の技術とセンター教員の知識で産学連携も進んでいる。学生にとっては居ながらにしてインターンシップ、企業技術者にとってはリカレント教育にも繋がっている。

研究成果、関連行事や年報等は同センターのWEBサイトで公開しているので、ぜひご覧いただきたい。

先進セラミックス研究センターWEB サイト:http://www.crl.nitech.ac.jp/


総合地球環境学研究所(人間文化研究機構)

「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」事務局運営

総合地球環境学研究所が主体となり、カーボンニュートラル達成に向けた大学の貢献を一層推進するため、多様な研究や取り組みの成果を共有する場として「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」(以下「大学等コアリション」)を立ち上げた(図、国内192の大学等が参加(2022.4.1現在))。各ワーキンググループ(以下「WG」)の活動の方向性及びロードマップに沿って、総会、シンポジウム、運営委員会、各WG等において議論を進めるとともに、ホームページ(https://uccn2050.jp/)を開設し、成果を発信中である。

大学等コアリションの活動を展開するうえで、活動の根幹となる大学等コアリションの5つのWGにそれぞれ幹事機関とWG の運営を担う担当委員会を配置するとともに、全参加大学の学長等が参加する大学等コアリションの決議機関である総会を2021年7月29日に開催した。また、全体の意思決定とWGにおける実践とを円滑に機能させるため、大学等コアリションの運営委員会を設置している。組織運営体制の整備にあわせ、各WGにおいて、以降の活動計画に関する検討を行い、ネットワーキングの強化や積極的な広報活動の展開を視野に、ロードマップとして5ケ年計画を策定した。

対外発信として、「大学等コアリション全体シンポジウム」を2022年3月11日に開催し、自治体や企業の大学等コアリションへの参加の準備を行っている。

各WGの役割と活動の方向性