第2部 提言の解説

2.大学入試センター試験の改善

(1) 大学入試センター試験の目的について

 共通1次試験は、きめ細かで丁寧な入学者選抜の実施、学力試験の改善(難問、奇問の排除)及びこれを通じた高等学校教育の正常化へ寄与することを目的に1979年から国立大学及び公立大学の入試に導入された。共通1次試験は、大学入学志願者の高等学校における一般的・基礎的な学習の達成度を判定することを目的とし、全受験生は、当初5教科7科目を課されたが、1987(昭和62)年度から5教科5科目に削減された。その後、入学志願者の個性・能力・適性等の多面的な判定や国公立大学の他、私立大学を含めた大学入学者の選抜方法の改善に積極的に寄与するものとして、共通1次試験に代わる新しい試験として1990(平成2)年度からセンター試験が実施されることとなった。
 センター試験は、国公私立大学の全ての大学が利用することができ、その教科科目の利用方法も各大学の自由であるところに特徴がある。センター試験がア・ラ・カルト方式になったことで、ゆとりある教育の実施が可能となり、一芸入試等からオールラウンド型まで、従来とは異なるタイプの学生が入学できるようになるなど、入学志願者の多様化に対応できる柔軟性、幅のある入試を実現できるようになった。しかし、このことは同時に高校における科目未履修や不十分な科目理解を広げ、大学の基礎教育課程において、リメディアル教育・補習授業を必要とする事態を生じさせる要因となったことも否定できない。本来、一芸入試は、基礎学力が(十分な)到達度にある者で、かつある分野において秀でた才能・能力があるといえる者を大学が迎え入れる試験方法であり、現状は必ずしもその趣旨が生かされているとはいえない。大学入試を大学教育のスタートであると位置付けるならば、高校教育における基礎的な学習達成度がどうあるべきかを改めて議論すべき時期にきているというべきであろう。

(2)  大学入試センター試験の制度的な見直しについて
 国立大学として、入学者の基礎的学力をどう評価し、入学者を判定するか。そのためには、センター試験の基本的、制度的理念をどう掲げるかを確認する必要がある。センター試験が共通1次試験と同様、選抜試験として高校教育の学習の達成度を測る選抜試験とするならば、その責任は明確に大学にあり、入学者の基礎学力確保のために、センター試験を改革する必要が生じる。一方、センター試験成績を高校調査書と同じ目的の高校教育の学習到達度評価とするならば、その評価の主体は大学ではなく高校にあることとなる。

 提言2.1
 センター試験を「選抜試験」として利用するうえで、公平性を欠くことのないように、利用実態に即して制度的な条件整備を行うことを大学入試センターに要望する。
 
 共通1次試験とセンター試験との違いは、前者は第1次と第2次の入学試験で構成される選抜試験の一部であり、後者は高校の調査書と性格を同じくする到達度評価の資料と位置づけられている点である。選抜試験は成績の序列をつけ、合否判定に供することから、一次元的に扱えることを前提としている。しかし、到達度評価は多次元であってもかまわない。周知のとおり、センター試験には国語・、国語・・・という単位数、難易度の異なる科目が同じ科目として選択可能となっているほか、地歴のA、B科目、理科の・A、・B科目なども、履修単位数の異なる科目がそのまま同列に並べられている。このことは高校関係者からも疑問が寄せられているところであるが、センター試験の性格が到達度評価であるということから、これまで許容されてきた。
 しかしながら、センター試験の利用実態からすれば、ほとんどの大学がセンター試験を選抜試験として利用している。総合点を出し、それを個別学力試験と総合して合否判定に用いている。センター試験をどのように利用するかは大学・学部の判断に委ねられているが、センター試験の成績からして一律には扱えないというのは、混乱のもとになる。センター試験を到達度評価ではなく、選抜試験と位置付けなおし、実態に即した制度化を進めることが改善の道と考える。現在のように、高校調査書と同じ選抜資料という位置付けであるなら、これは大学が実施するべき評価ではなく、大学入試センターが実施する試験にも該当しないものとなる。

 提言2.2
 国立大学志願者(一般選抜)については、原則としてセンター試験5教科7科目の受験を課す。

 大学入学の基礎学力を如何に担保するかはたいへんな問題であるが、共通1次試験時代を想起すれば問題点はかなり予見できる。それらを十分踏まえたうえで、センター試験を国立大学における入学者選抜のための第1段階目の試験と位置付け、受験教科数は5教科とし、受験科目は7科目とする。地歴・公民は理科とのバランス上、1教科として扱い、受験者は地理歴史・公民から2科目、理科は物理・化学・生物・地学等から2科目を選択する。各大学・学部は、アドミッション・ポリシーに従って科目の指定を行う。その際、現行課程では4単位科目と2単位科目の取り扱いが問題視されるが、基本は4単位科目とする。
 2003(平成15)年度からの新学習指導要領による受験者の取り扱いは、今後の決定に委ねられることとなるが、国語として国語総合4単位、理科として理科基礎、理科総合A・Bに物理、化学、生物、地学の3単位の中から2科目を選択するのが妥当であろう。地理歴史・公民は各大学の指定に委ね4単位科目を2科目選択させる、外国語は英語・を選択する等の案が考えられる。

 提言2.3
 試験科目の選択が制限されぬように、また余裕をもって受験ができるように、センター試験の試験期間を1日延長して3日間とする。

 現行のセンター試験のあり方としては、少なくとも理科の「物理」と「生物」の組合せ受験を実現させたい。その可能性としては実施日を1月の3日間とし、おおかたの受験者が2日間で試験を終了するとしても、特定の受験者については最大3日間を要することも含め、試験期間のスケジュールを検討する必要がある。
 センター試験は現在、6教科31科目の試験を2日間で実施している。そのために、物理と生物のように、理科の選択科目でありながら、実際には受験することのできない科目の組み合わせが生じている。このことは大学にとっても受験生にとってもきわめて不合理であり、センター試験の理念にも反する。センター試験の期間を2日から3日に延長することは、これまでも検討されなかったわけではないが、試験場の確保がむずかしいこと等から、なかなか実現の見通しが立たなかった。しかしながら、1月の祝日である成人の日が第2月曜日に確定したことから、この祝日を利用し、土、日、月の3日間にわたって試験場を確保する道が開けた。試験期間を延長できれば、従来、組み合わせ受験が不可能であった科目をなくすことができる。また、そればかりでなく、通常受験者の1.5倍の時間を要している障害者の受験においても、ある程度余裕をもって試験時間を確保することも可能となる。

 提言2.4
 確実な成績情報のもとで個別大学への出願が可能となるように、センター試験成績の事前通知の実現をめざす。
 
 受験生にとって、センター試験に対する不満のひとつは試験成績の事前開示がなされないことであり、そのような状況下で大学入試が実施されていることである。事前開示がなされると、受験生は確かな情報にもとづいて志望大学を選択し得るし、出願できるようになる。
 センター試験が第1段階の試験であれば、その成績が通知されてから、第2段階の個別学力検査へ出願することが「順序」である。現在の自己採点制度は共通1次試験がスタートしたときの諸事情から考え出された次善の策であるが、科目マークミスやマークシートの記入ミス、受験番号・氏名の欠落などから、採点された成績が自己採点結果と大差の開きを生じるケースも看過してはならない問題である。
 2001(平成13)年度からは入試情報の個人開示もはじまり、事後的にはなぜ不合格になったか、それを確認することが可能になるが、その時点で自分のミスを知ったとしても、個別学力検査の出願時に戻って選択をしなおすことはできない。入試選抜制度の基本的な要件のひとつは、不運にも合格できなかった受験生にとって、その結果を何とか受容できる条件を保障することである。その点で、センター試験成績の事前通知は早急に解決されなければならない課題である。

 提言2.5
 大学審議会の提案するセンター試験の複数回実施は、資格試験的取り扱いが前提でなければ、単に競争が2回となるだけで、さらに熾烈な競争が生じ、試験の改善にはつながらない(参照、資料;大学審議会「大学入試の改善について(中間まとめ)」に対する意見)。また実施面からみても、問題の難易度調整等について、現状では解決の困難な課題が山積している。そのため、現行制度の枠内において、「やり直し」への配慮を講じるとすれば、追試験(大学入試センター試験)の改善を優先するべきであろう。追試験受験については、その条件が厳しく制限されているため、現状では、病気、事故等による欠席にもかかわらず、追試験を受験できない者が相当数存在する。これらの受験者をできるだけ多く救済できるように、追試験受験の条件緩和を要望したい。

 追試験の受験者数は毎年、200〜300人台と報告されている。かつて900人台にのぼったことが一度あるが、それは全国的にインフルエンザが流行した年であり、追試験の事態としてはまったく例外的なことであった。つまり、比率のうえでは、追試験の受験者がセンター試験の出願者の0.05%を下回るというのが、例年の数字である。60万人近い出願者がいるセンター試験において、交通事故、病気等でやむを得ず追試験を申請せざるを得ない者がこの程度の数にすぎないのは一般常識からすればまったく異例のことである。これは、何より追試験受験の制約条件がきわめて厳しいためといわざるを得ない。
 現在、センター試験の利用は国、公立大学だけでなく、私立大学についても、その半数までに広がっている。このため、センター試験を受験できなかった者は、国、公立大学の前期、後期の試験にチャンスを失うだけでなく、私立大学に関しても、センター試験ルートに関してはその機会を失うことになる。大学審議会がセンター試験の複数回実施、やり直しをいうのであれば、まず、この追試験受験の条件緩和を優先するべきではないかと考える。
 
(3) 大学審議会入試専門委員会「中間まとめ」について

やり直しのきく大学入試 
 センター入試の複数回実施に関する国大協の考えは、本来の意味での「やり直しのきく大学入試」であり、年齢主義の打破である。何時、如何なる時期にあっても大学の門をくぐることが可能な生涯学習化の糸口となることを提唱してきた。しかるに、大学審議会中間まとめで提案された複数回実施は高校新卒者の受験機会をのみ(ないしは浪人生)念頭においた複数化であった。さらに、成績の複数年度利用については、大学入学者選抜が従前のようにセンター試験と個別試験との組み合わせによるものであれば、センター試験の成績の標準化、年度間の難易差調整の技術的課題が解決されなければ、導入はむずかしい。これを放置したまま、複数回実施に踏み切れば、受験生は過度の受験機会に振り舞わされることとなる。

成績の取り扱いに関する技術的問題
 センター試験の成績は、複数回(2回)の平均点を利用するのではなく、高い方の成績を利用することが前提となっている。資格試験的な取り扱いが実現すればよいが、そうでなければ、却って受験生に1点を競わせる熾烈な競争を強いることになり、有名大学、難関大学への再受験組の受験生を増大させ、大学受験競争を一層加熱させる要因ともなり得よう。このことは、大学間の序列を先鋭化させ、再びそれを助長する契機にもなる。また、どちらか良い成績のほうを採用する方式の場合、1回目のセンター試験で上位だった者が2回目には逆転されることもあり、競争が2回にわたるだけで、そのままでは「やり直しのきく入試」とはなり得ない。

センター試験の資格試験的取り扱い
 センター試験の資格試験的な取り扱いは、ひとつにはこの欠点を克服するものとして提案されているが、実際上、資格基準を明示できる大学は上位の大学に限られる。それも学部間の難易差等を考えれば、その基準は安全係数をかけて、低いレベルに設定せざるを得ない。そうした条件のもとでは、個別学力検査に合否判定の実質が委ねられることとなり、大学側の負担はきわめて高いものとなる。また、資格試験のもうひとつの狙い、学力の最低保障をそこに求めるという考えについても、それを必要とする大学ほど、資格基準を明示しにくいという現実がある。アイデアとしてはよいが、現実的な可能性は低いといわざるを得ない。

センター試験の複数回の実施

 センター試験の複数回実施は、その業務量からみても、その困難さは想像をこえる。センター試験の実施時期については、高等学校における教育課程からやむなく1月15日を中心とした土、日曜日の2日間とされてきたが、中間まとめにある前年12月実施(案)では、その間、ほぼ1ケ月間の準備期間しかなく、実施を預かる大学にあっては、年末における諸行事とも相まって多忙の最中にある(1月実施に向けた試験場確保、実施責任者、試験場監督者、事故者の保護・管理、会場案内者等々の割り振り、問題紙・解答紙の管理等)。これまで、全国60万人近い受験者が公正・公明に試験を受験できるよう努力してきた関係者からすれば、安易に「公平性の見直し」を図り、少々の問題点は対象外とする中間まとめの内容は現場からみれば、ほとんど理解を超えるものである。また、複数回の試験実施に当たって、事務職員や大学院生等の活用提案も、現実と遊離しているといわざるを得ない。事務職員はすでに限界といえるほどに入試業務に投入されており、大学院生等の活用は、トラブルが生じたときに、責任の所在を明確にすることさえ困難である。

リスニングテストの導入
 中間まとめにある、センター試験においてリスニングテストを課すという提案については、その趣旨には同意すべき点は多い。しかし、残念ながら、その実施にはハード面及びソフト面で多くの支障が予想される。実施上の問題点として音声の方向性(指向性)、受験生の位置上の有利不利等々に不安な点が多く、解決すべき事項が多々残されている。施設・設備上の十分な検討を得ないまま、実行に移せば、センター試験全体の実施をも危うくする危険性がないとはいえない。リスニングテストに関しては、個別学力試験で個々の大学・学部が必要に応じて実施するのが、最も現実的といえる。

共通試験としての総合試験の導入
 総合試験の導入については、今日のように高校教育の多様化が進んできた状況を考慮すれば、総合試験に関心が集まることは十分に理解できる。しかしながら、総合試験とは何をさすのか、何を測定するのか、その内容は一向にあきらかではない。諸外国においても、総合試験の測定内容に曖昧さが残ることから、その役割は、補助的な評価に位置付けられている。従って、我が国においても十分な検討(適格者判定の基準)なくして総合試験の導入は困難であり、選抜方法のあり方、具体的な内容(指導要領との整合性)、その役割などが検討され、各大学の状況に応じての学力なのか、適性なのか、どのような能力が測れるか等の同意を得ることが先決であろう。

センター試験の成績の複数年度利用
 もうひとつの提案であるセンター試験の成績の複数年度利用については、2回の試験の難易度をそろえるなどの技術的な課題を解決する必要があり、その前提がなければ、混乱を招く。また、科目間の難易差や得点調整、4単位科目と2単位科目の調整をどう取り扱うかなど多くの問題点の解決なくして、複数年度利用は一方で不公平さを助長することになると言えよう。 

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