あとがき
 
 本報告書は平成10年度及び平成11年度における本委員会の調査・研究活動のまとめに当たるものである。
 この両年度において国立教員養成系大学・学部はかってない激動を経験することとなった。もちろん教員養成系にとどまらずすべての国立大学、すべての専門学部がかってない課題に直面したし、今なおそれは継続中であるが、やはり教員養成系が抱えこまざるをえなかった課題が一番大きかったであろう。3年間で学部学生定員を5,000名削減するというのは国立大学の歴史の中になかった事柄のはずである。平成9年5月に提起されたこの課題が、結果的に達成されたことは本報告書の資料編の[資料2]にある通りである。内容的には新課程振替、他学部振替を含むにせよ、純減も1,985名、ほとんど2千名が削減された。そして学生定員20名について教官定員1名削減という原則によって実施されたので、教育学部としては約100名の教官定員を失ったことになる。他学部振替の措置がどう実施されたかは現在までのところ詳細不明であるが、教育学部からすれば教官の移動や削減によって定数減になったはずである。新課程をどう評価するかはいまだ定まらない事柄であることは本報告書の各所に触れられている通りであるが、新課程振替が教員養成課程弱体化につながるのではないかという危惧は多くの人が抱くことである。
 平成9年度末、来年度からの2年間の継続設置が決定したとき、本委員会の取り組む課題として、この削減問題への各大学・学部の対処、及び意識、今後への展望などを調査しなければいけないとなったことは、この問題の大きさ、今後への影響等を勘案すれば当然のことであったろう。
 その一方で、時を同じくして教員養成系の教育研究に大きな関わりをもつ教育職員免許法と関連規則の大幅な改訂が実施された。この点について、やはり実態と受け止め方とを調査しておきたい、ということになった。さらに今後の教員養成において新しいステージとなる可能性をはらむ修士課程について、どんな取り組みがはじまっているのか、これも調査しておくことになった。
 以上が本報告書の内容となっている調査に取り組むことになった動機と経緯である。
 この調査は「今後の教員養成と教育学部のあり方に関する調査」として、すべての国立大学学長、すべての教育学部長を対象として平成10年11月に実施し、約3ヶ月で教員養成課程を設置している大学に限っては、すべてもれなく回答をいただいたものである。その後集計と分析に当たり、平成11年3月に第一次報告書として報告を行った。しかし、その後の国立大学を取り巻く環境の変化は著しいものがあることはここで言うまでもないことである。私たちとしては相当の努力と苦心を注ぎこんだ調査が日に日に過去のものになっていくことを実感せざるをえなかった。そういう意味では第一次報告書を本体とする本報告書をあらためて作成する意義にかなりの戸惑いを感じたことは率直に告白せざるを得ない。しかし、1999年の入り口の時点で、すべての国立大学の学長、すべての教育学部長がこれらの課題をどうとらえ、どう対処しようとしていたかを示す資料は貴重なものであり、永久(とまでは言わないまでも)保存版として刊行しておくことは意味のあることとして刊行に取り組んだ次第である。同時にその後の事態の進展も取り込み、今後の展望への示唆となればと考え、専門委員が私見もまじえて課題を考察することとした。また、関係する資料を掲載し、討論の材料に供することとした。
 最初に記したようにこの報告書は平成10年度、11年度教員養成特別委員会の活動の中でまとめられたものであり、現在の委員は名簿にある通りであるが、平成11年度の途中で退任された前委員長の木下繁彌大阪教育大前学長、平成10年度で退任された専門委員の山田昇奈良女子大学前教授には実質的に本調査の中核となっていただいたものであることを記しておきたい。また、調査から報告書の作成に至る間、国大協事務局の方々には全面的にご協力いただいたことも記しておきたい。
 なお激浪の直中にある国立大学と教員養成であるが、今後の発展にとって本報告書が一臂の力となればと祈って送り出すものである。

平成12年3月
専門委員 横須賀 薫
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