第2部 国立大学における身体に障害を有する者への支援を推進するために

1. 障害学生の受け入れ体制の整備
 調査結果に見られるように、身体に障害を有する受験者の数は年々増加する傾向にあり、過去三年間に障害学生の受験ないし受験相談のあった大学の数は80%に達している。また、入学者の数も一定の数値を示し、障害の種別も運動障害(肢体不自由)、聴覚障害、視覚障害、健康障害(病・虚弱)など多岐にわたっている。こうした現状から、ほとんどの大学が受験相談窓口を設けているが、障害学生の受験に関する何らかの規程がある大学は31%、全学で統一した規程がある大学は14%と少なく、組織的な対応がまだ不十分な現状である。入学後の相談・支援の窓口となると、さらに組織的な対応の不備が目立ち、当該学生の修学上の困難や支障に関する相談窓口を設けている大学は31%、当該学生の相談に対処する特別な委員会等の組織を設けている大学は11%にとどまっている。このような相談・支援体制の未整備には、障害学生の問題への全学的な関心がまだ低いことに加えて、障害学生の相談・支援のあり方やシステムに関する情報の不足、モデルの欠如も大きく影響している。
〈提 言〉
(1) 各大学において、障害学生の修学支援に対する全職員の関心を高めるとともに、組織的な相談・支援体制を整備していくことが必要である。
(2) そのためには、各学部委員から構成される全学的な「障害学生支援委員会」を設けるべきであり、将来的にはこの委員会を恒常的な「障害学生支援センター」の設置へと発展させていくことが望まれる。
(3) 国の援助のもとに、基幹大学に「障害学生支援情報センター」を開設し、公立大学や私立大学を含む全国の大学に障害学生支援に関する情報を提供することが望まれる。また、全国のエリアごとに障害学生支援の中核となる大学を設け、基幹大学・エリアの中核となる大学・個々の大学の間の情報ネットワークを形成していく必要がある。

2. 障害学生のための施設・設備の整備

 障害学生の修学に必要な施設・設備については、整備の完了した大学が約20%、整備されつつある大学が60〜70%と、整備の努力がなされている。整備の内容としては、玄関等のスロープと自動ドア、身障者用のトイレ、身障者対応のエレベーター、身障者用の駐車スペース、視覚障害者用の誘導ブロック、車椅子用座席などが中心である。これを、本調査における「障害学生からの声」と対比すると、大学側が必要と考える施設・設備と障害学生が求める施設・設備は大筋では一致しているが、施設・設備が設けられた場合でも、実際には利用困難なもの(例:エレベーターはあっても建物入り口にスロープがない)や役立たないもの(例:急すぎて使えないスロープ)もあり、施設・設備の設置と充実にあたっては、その内容をよく検討する必要がある。

〈提 言〉
(1) 障害学生の修学に必要不可欠な基本的施設・設備の早急な整備が必要である。また、最も切実な施設・設備の整備に加えて、今後は、点字・音声表示を備えた学内・建物地図、音声誘導装置の設置など、よりきめ細かな設備の充実が求められている。

(2) 障害学生用の施設・設備の整備にあたっては、大学側が一方的に設置するのではなく、障害学生側の希望や意見をよく聴取して、真に利用しやすく役に立つ設備・施設を整えていく必要がある。

3. 障害学生の授業・学生生活に関する支援体制の整備

 障害学生に対する通常の講義上での特別措置や実験・実習・実技上での特別措置は約70%の大学が行っているが、全ての授業で措置できている大学は4校にすぎず、大半の大学は一部の講義での措置か、その場での判断により対応している状態にあって、統一された方針のもとでの組織的な対応が行われているとは言いがたい現状である。また、措置の内容をみても、授業場面での支援(聴覚障害学生のための手話通訳・ノートテイク)、受講不可能な授業の代替単位の認定、テストへの配慮など、必要最小限の《バリア除去》の段階にとどまっている。2で述べた設備・施設といういわゆる「ハード面」にくらべて、「ソフト面」の整備はまだまだ不十分な状態にあると言えよう。

〈提 言〉
(1) 障害学生の修学と学生生活を快適で充実したものにするための組織的な取り組みが必要とされている。そのためには、1の(2)にあげた障害学生支援委員会を学内に設置して、障害学生のキャンパスライフの相談窓口になると共に、当該委員会において障害学生支援の方策と内容を日常的に検討し、全学の教職員に広めていくことが求められる。
(2) 障害学生の修学への支援を、授業における《バリア除去》だけでなく、入学時のオリエンテーションやガイダンス、クラス構成上の配慮、授業における教官側の配慮と工夫、授業外の学習に対する支援、メンタル・ヘルス・ケアなど、より広範できめ細やかなものに高めていく必要がある。
(3) 障害学生の授業履修にあたっては、障害の様態に応じた特別コース・クラスの設定や、履修が困難な科目の代替措置など、カリキュラム上の配慮と工夫が必要である。

4. 教官への支援体制の整備

 日本の大学では、従来、障害学生に対する支援と言うと、「障害学生のためにどのような施設・設備を整え、修学上の支援を行っていくか」が中心とされてきた。それは、今回の調査項目にも如実に表れている。しかしながら、障害学生の受講にあたっては、授業を担当する教官側にも、「どのように対応したらよいのか」、「具体的にどんな配慮をしたらよいのか」という戸惑いが多いことも事実である。したがって、障害学生の学習支援においては、『授業担当教官への情報提供と支援をどう行うか』という視点もまた不可欠である。実際、米国の大学における障害学生支援プログラム(例:ハワイ大学のKOKUAプログラム。KOKUAとはハワイ語で“help"を意味する)では、授業担当教官への情報提供と授業に関する相談・支援が大きな位置を占めている。

〈提 言〉
(1) 今回の調査には、障害学生の授業を担当する教官側の意見や授業実施上の問題点を問う項目、教官への情報提供や支援の実態を問う項目が設けられていない。今後の同様の調査にあたっては、これらの内容項目を盛り込んでいく必要がある。
(2) 障害学生の支援においては、授業を担当する教官への情報提供と支援も必要不可欠であり、それを可能にする学内体制の整備(1の(2)にあげた障害学生支援委員会や障害学生支援センターの設置)と、全国的な情報提供システムの整備(1の(3)にあげた障害学生支援情報センターの設置)が求められる。

5. ボランティア等の支援体制の整備と一般学生に対する啓蒙

 3の授業に関する支援に関係することとして、「学内の一般学生や教職員他による学習支援組織の有無」の項目をみると、そうした支援組織が「ある」と答えた大学は、15%しかない。また、一般学生に対する障害学生についての何らかの啓蒙活動を行っている大学も14%にとどまっている。さらに、一般学生による障害学生支援を授業の一部としたり、単位に組み込んだりしている大学は、わずかに12%である。その一方、授業場面での支援等については、一般学生の無償ボランティアに頼っている大学が65%に達し、一般学生への報酬を予算化している大学は10%に過ぎない。この調査結果には、障害学生への支援を一部の学生の個人的な善意に依存している現状が如実に表れていると言わざるをえない。先に述べた、大学側の支援体制の整備と合わせて、障害学生に対する一般学生の理解を深め、一般学生による支援のシステムを構築していく努力が早急に求められている。超高齢化社会の到来を間近に控え、高齢者、障害者など社会生活にハンディを持つ人たちへの支援の重要性(社会福祉の充実)が叫ばれている現在、一般学生が障害学生と交流する機会を得、その支援を経験することは、社会人としての素養を身につける上で極めて重要と考えられる。
 なお、障害学生からの意見として、点字・手話通訳等の専門的な技能領域については、学内支援だけでは不十分であり、学外の支援団体・個人への委託も考えてほしいとの声があった。

〈提 言〉
(1) 一般学生に対して、入学時や在学中に、障害学生支援に関する理解教育を行う必要がある。
(2) 障害学生への支援活動は、一般学生にとって重要な意義をもつが、支援のすべてを無償ボランティアに頼ることには限界がある。今後は、国側においては報酬の予算化措置、大学側においては学生による支援活動の授業内での位置づけや単位認定など、一般学生の支援活動を定着させ組織化していく取り組みが求められる。
(3) 専門的技能を要する支援領域については、学外の支援者への委託など、地域社会との連携も考えていく必要がある。

6. 卒業後の進路開拓

 調査結果に表れているように、障害学生の約1/3は、卒業後の進路が未決定のままである。学生の障害の程度・様態も関係していようが、障害を持つ人たちの社会での受け入れがまだ不十分な現在、障害学生の卒業後の進路に関する追跡調査をさらに綿密に行うと共に、在学中だけでなく、就職先の開拓等、卒業後の進路に関する取り組みも今後必要となろう。
 以上、今回の調査結果をもとに、障害学生の受け入れ体制の整備と支援の方策について提言したが、現在のところ、障害学生への実際的な支援は、その学生を受け入れた学部・講座・教職員の努力にゆだねられることが多く、まだ全学的な取り組みのレベルには至っていない。今後、こうした現状を改め、大学人全体が障害学生の存在に関心と理解を深めて、全学的にその支援に取り組んでいくことが、何より求められている。確かに、大学全体の学生数に占める障害学生の割合は少ない。しかし、高齢者や障害者の福祉の充実が謳われ、「皆が共に暮らす、皆が住みよい社会」が目指されている現在、国立大学が率先して障害学生の支援に取り組み、社会に対して支援と共生のモデルを提示していくことは、国立大学に課せられた大きな使命の一つと言える。

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