第76号

2025年12月

広報誌「国立大学」 第76号
国際社会と共に歩む大学の挑戦

OPINION

国立大学のさらなる国際化は「おもしろい」の多様化にある

国立大学のさらなる国際化は「おもしろい」の多様化にある

タレント

パトリック・ハーラン

「パックン」ことパトリック・ハーランさんは、アメリカのハーバード大学卒のお笑い芸人として知られる。日本の在住歴は32年。情報番組のコメンテーターや俳優など、多彩な芸能活動の傍ら、東京科学大学などで講師も務めている。日本の国立大学はその将来像に、さらなる「国際化」と「多様化」を重点課題として掲げている。国立大学の国際化を進めていくには、どのような姿勢や取り組みが必要になるのか。日本とアメリカの大学を知るハーランさん(以下、パックン)に意見を求めた。

Think locally, Act globallyを実践する日本の大学

東京科学大学では「国際関係とコミュニケーション」の講義を担当。ほかに、流通経済大学でも客員教授として教鞭を執っているパックン。日本の大学をどのように見ているのか。

「日本でほかの先生の講義を受けたことはないから、日本の大学をそれほどよく知っているわけではない」と前置きしたうえで、その「良いところ」を次のように述べた。

「まず、キャンパスが街に溶け込んでいる大学が多く、しかも安心して学べることですね。アメリカではキャンパスを郊外に置く大学が多いのですが、それは街中の治安が良くないから、街から学生を引き離すかたちをとっている。その点、日本は街中も安全だから、学生の親は子どもを大学に通わせるのに何の不安も感じていないでしょう。海外から日本に留学する学生と親にとっても、この安心感は魅力だと思います」

さらに「大学が街や企業と連携した取り組みが多い」ことも特色だと言う。

実はパックン、テレビ番組(テレ東BIZ「チーム池上が行く!」)のリポーターとして、注目される大学の取り組みをしばしば取材している。過去の番組では女子大学に初めて工学部を設けた奈良女子大学や、授業へのデータサイエンスの導入事例など、国立大学の話題も取り上げられた。

「地域活性化を地元の人たちと一緒に考える、産学連携で社会課題の解決に取り組む。そういった取り組みをたくさん見せてもらいました。本当に素敵だと思います」と称賛する。

それら地域密着型のプロジェクトは、いわゆる「Thinklocally, Act globally(地域で考え、地球規模で行動する)」の実践ともいえる。

日本の学生に欠けるハングリー精神

一方、日本の大学の気になるところを尋ねると「学生にハングリー精神が足りない」という答えが返ってきた。

「学生たちに『大学の授業で居眠りすることはありますか?』と聞くと『あります』とみんな素直に答えますよ(笑)。だから僕は講義の1日目に言うんです。『僕はプロとして教えるのだし、あなたたちもプロとして学んでいるはずです。学業があなたたちの本業ですからね。給料をもらう社会人になったとして、会議で寝ますか?』と。」
 
厳しい受験を乗り越えてきた日本の学生は皆、一定水準の学力を備えている。「入試制度の良し悪しはともかく、それは良いところ」だととらえている。

反面、進級や卒業のハードルが低い。授業を受ける学生たちの意欲や緊張感にゆるみが感じられるのは「大学や先生に、少し守られすぎているからではないか」と指摘する。

よく「欧米の大学は入るのは簡単だが、出るのは難しい」といわれる。しかし、本当に入るのが簡単なわけではない。アメリカの場合、入学審査は高校の全成績が重視される。入学後、卒業に必要な単位の取得は日本よりはるかに厳しく、出席率や学業への意欲や態度も評価の対象となる。

「基本的に日本の学生たちは、集中力も記憶力もあるし、好奇心が旺盛で学力も高い。それをフルに発揮できる環境が大学にほしい」と言う。なったとして、会議で寝ますか?』と。」
 
厳しい受験を乗り越えてきた日本の学生は皆、一定水準の学力を備えている。

「入試制度の良し悪しはともかく、それは良いところ」だととらえている。反面、進級や卒業のハードルが低い。授業を受ける学生たちの意欲や緊張感にゆるみが感じられるのは「大学や先生に、少し守られすぎているからではないか」と指摘する。
 
よく「欧米の大学は入るのは簡単だが、出るのは難しい」といわれる。しかし、本当に入るのが簡単なわけではない。アメリカの場合、入学審査は高校の全成績が重視される。入学後、卒業に必要な単位の取得は日本よりはるかに厳しく、出席率や学業への意欲や態度も評価の対象となる。

「基本的に日本の学生たちは、集中力も記憶力もあるし、好奇心が旺盛で学力も高い。それをフルに発揮できる環境が大学にほしい」と言う。

海外への情報発信力が日本の大学の大きな課題

成績評価の視点もアメリカと日本の大学では違いがある。パックンが在籍したハーバード大学では「クリエイティビティが採点で最も上位の基準」になっていると言う。日本の大学でも、定期試験をレポートや独自テーマの小論文などに振り替えるようになってきてはいるが、それでもまだ科目内容の習熟度を問う傾向が強い。

「AIがこれだけ発達すると、いずれ大学入試や定期試験もAIで誰もが100点を取れるようになるかもしれませんね。試験のあり方も見直す必要があると思います」

それはとりも直さず、大学が自大学の特色をどう打ち出すかということにも関わってくる。

「日本の大学は、もっと情報発信に力を入れたほうがいいと思いますよ。一般に大学のホームページは見づらいし、使いづらい。技術系の大学でも紙ベースのやりとりが多い(笑)。今は中小企業もDXに取り組む時代です。大学はそれをけん引する立場だと思うんですけどね。ホームページも、よりデザイン性が高く、使い勝手の良いもの、魅力を感じてその大学に行きたくなるような雰囲気づくりをしてほしい」
 
国立大学は、その将来目標として留学生の増大を掲げている。となれば、英語版の魅力的なホームページづくりなど、海外への情報発信力は今後の大きな課題になる。

海外からの留学生を増やす好循環の仕組みとは

では、海外から日本の大学に留学したいという人を増やすには、どのような手立てが必要になるのか。

「まず学生と教員の英語力と、授業の英語率を上げることが1つです。2つ目は大学の世界ランキングを上げることですね。この2つは連接します。英語力を上げて、英語での論文発表が増えると、海外の研究者の目にも触れやすくなります。論文からの引用数は、大学のランクと直結しますから、英語論文の発表数を増やしていけば、次第に好循環を生んでいくようになると思います」
 
その好循環とは、例えば英語の論文が学術雑誌に載り、それが引用されると大学の評価・認知度が上がる。大学ランキングが上がれば、海外留学を考えている人の目に届き、留学につながるというサイクルだ。

「広報の観点ではもう1つ大切なことがあります。その大学を卒業すると、グローバル社会でどのような活躍ができるのかを、具体的に示すことです。卒業生がどういうところに就職したかとか、専門性を活かしてどんな活躍をしているかといったことです。例えば、僕が卒業したハーバード大学からは、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグが出ています。この2人は、卒業していませんけどね。でも、大学のバリューは伝わる」
 
こうした情報発信は大学発よりも、卒業生やその大学に留学経験のある人が発信するほうが効果的かもしれないとパックンは付け加える。

アメリカの経済力も文化力も異文化の流入で成長した

国立大学の留学生の拡大方針には、海外の優秀な人材を日本に集め、卒業後もこの国で活躍してほしいという願いも込められている。一方で、日本で働くとなると言葉と文化の壁は大きい。日本に在住して30年余りになるパックンでさえ、今もその壁を感じることはあると言う。

「やはり共通の言語を持たないと、円滑なコミュニケーションが成立しにくいですね。日本が留学生を社会人として受け入れたいならば、職場でも共通言語として英語をもっと使うようにしていかなければならない。また、そうなったとしても、外国人も日本語は学んだほうがいいですよ。日本の文化やその人の価値観がより理解しやすくなりますから」
 
国籍や人種を超えた異文化の流入は、国をより豊かにしていくものでもあると言う。

「アメリカ人の立場で言うと、外国からアメリカに持ち込まれたものに僕は感謝していますよ。メキシコ料理、ダンスのサルサ、それこそ日本の漫画やアニメもそうです。今、アメリカのトップ10企業の半分はCEOが外国人です。アメリカ経済を代表する約500社の4割ぐらいは、外国人もしくはその子孫によって創立されています。アメリカの経済力も、文化力も、そうして成長してきたと僕は思っています」
 
とはいえ、日本が持つ独自性も大切だとも指摘する。

「日本のアニメ、ファッション、工芸、文学も音楽も、今は世界的に高く評価されています。日本のクリエーターの創造力はすごく豊かだし、日本の大学もおしゃれです。欧米の大学とは違うセンスを持っていておもしろい。言語や規格、情報発信の方法などはグローバルスタンダードに合わせるにしても、学習・研究法やその内容、表現の仕方などは、むしろほかと違っていていいと思います」

世界基準×日本流 そこに新しい学びが生まれる

「国」を「立たせる」大学だから挑戦は国立大学の義務

テレビ番組の取材で、大学のさまざまな取り組みを見てきたパックン。大学は自らの発想で多様な経験ができ、また挑戦の場でもあるという。

「まだ僕の目に触れていない取り組みも、何千とあると思います。それをもっと海外にも発信して、日本の大学はおもしろいと思わせてほしい。例えば、イグ・ノーベル賞は19年連続で日本の研究が受賞していますね。おもしろい研究があれば、その現場を見たい、研究している人を知りたいと思う人も多くなるはずです」
 
最近では、大学発ベンチャーも増え、2024年度で5000件余りに達している。つまり、大学の国際化とは単純に国籍や人種、性別の異なる人が増えることではない。「学術的なおもしろさ」の多様化にあるとパックンは考えている。

「自分と違う経験、価値観、知識を持っている人と話すのは楽しい。仕事をするのも楽しい。一緒に社会をつくるのも楽しい。そうした自分と違う人、新しいことと出会うのに、一番手っ取り早い方法は国境を越えることです」
 
海外から日本へ、日本から海外へ、その学生の流動は、大学の国際化を推進する原動力ともなる。受け入れも送り出しも、将来像実現に向けた方針に沿い、積極的に取り組んでほしいとパックンは期待を語る。

「僕は国立大学に関わっていることを誇りに思っています。「国」が「立てた」大学ではなく「国」を「立たせる」のが国立大学。日本という国をつくっていく責任があります。だから、挑戦することも義務だと思ってほしいですね。リスクを負うことを避けようとするところが、日本の弱さだと僕は思いますけれど、それでは先生も学生もグローバル社会に立ち向かえません。冒険を受け入れる大学に、そして冒険を歓迎する日本をつくっていってほしいと思います」
 
最後にパックンは一言言い添えた。それは「自分の前に敷かれたレールの上を走ろうとする鉄道ではなく、縦横無尽に自由に走り回れる4輪駆動車であってほしい」という日本の大学生に向けたメッセージである。

パトリック・ハーラン

1970年、アメリカ生まれ。ハーバード大学卒業(比較宗教学専攻)。1993年に来日。1997年、お笑いコンビ「パックンマックン」で芸能界デビュー。現在は、情報番組のコメンテーターや俳優、CM出演など幅広く活躍中。2012年より東京工業大学(現・東京科学大学)の非常勤講師。2021年度より流通経済大学客員教授、2024年度より関西大学客員教授。

パトリック・ハーラン

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