第76号

2025年12月

広報誌「国立大学」 第76号
国際社会と共に歩む大学の挑戦

LEADER’S MESSAGE

国立大学のさらなる国際化 この将来課題にどう応えるか

国立大学のさらなる国際化 この将来課題にどう応えるか

新潟大学長

牛木辰男

東京外国語大学長

春名展生

2025年3月、国立大学協会が発表した「わが国の将来を担う国立大学の新たな将来像(以下、国立大学の将来像)」は、国立大学のさらなる国際化を求めています。2040年を目途とするこの将来像では、国立大学全体で留学生比率を3割にするという数値目標も掲げられました。研究分野の国際化が進むなか、さらなる国際化に国立大学はどう向き合うのか――。グローバル人材の育成と国際化に積極的に取り組んでいる新潟大学と東京外国語大学の学長両氏が、自大学の事例なども交えて、この課題について語り合いました。

明治以来の「国際化の拠点」が、さらなる国際化を進める意義とは

牛木 国立大学の国際化がテーマですが、国際化は今に始まったことではありませんね。明治時代に開校したときから、国立大学は国際化の拠点として位置づけられていたと思います。

春名 最初の国立大学である東京大学は、外国人を教員として近代高等教育を始めましたからね。東京外国語大学(以下、東京外大)は、前身の東京外國語學校が1873(明治6)年開校ですが、その役割も西洋からの文化や価値、思想を受け入れる拠点でした。本学には、言語の分野で国際化の拠点であり続けてきたという自負があります。

牛木 それがあえて今、より国際化が求められるのは、国際関係がより複雑化しているからでしょう。昭和の日本は、せいぜい欧米に目を向けていればよかった。しかし今は、いわゆるグローバルサウスの国々とも、外交やビジネスでの関係が親密です。相手国の言語や文化を知り、互いの違いを踏まえて「知」を共有し、高めていかなければならない時代にすでになっています。

春名 国際化が強調される理由として、日本だけではなく、世界的に社会が持続可能性を失いかけていることも挙げられると思います。これまでの延長線上に未来を描けないから、新しい発想や知見が必要とされている。さらに言えば、日本は人口減少によって国内の市場が縮小していくと見込まれますから、企業は海外市場へ目を向けています。他方、人口減少が進む国内では海外から労働者を入れないと、現在の経済水準と社会保障制度を維持できなくなる恐れもあります。国立大学に、より国際化が求められるのには、そうした背景もあると思います。

学部横断・文理融合の研究拠点
新潟大学が「日本酒学」を設けた理由

牛木 東京外大は外国語大学の名前のとおり、そもそも国際色が強いと思いますが、どのような点を特色としていますか。

春名 ひとつは、全方位的であることです。語学の専攻語は28言語を数えます。例えば、グローバルサウスのアフリカについても、アフリカ地域専攻が学部レベルであります。特定地域の言語に片寄ることなく幅広く、その多様性を存在意義とする大学です。それがグローバル人材の育成においても大きな特徴になっています。新潟大学はいかがですか。

牛木 本学は総合大学ですので、それぞれの学術分野に国際交流の実績があります。例えば医学部は、ソ連崩壊の翌年、1992年から日ロの医学交流を続けてきました。今は両国の関係悪化で活動が停止していますけれど。文系の大学院生は中国からの留学生が多いですね。

春名 新潟が日本海に面しているから環日本海諸国の大学との関係が深いのですね。

牛木 従来は「環日本海」がひとつのキーワードだったのですが、近年はその領域をもっと広げています。例えば、7年前にできた本学の日本酒学センターは、その後、フランスのボルドー大学と大学間交流協定を結んでいます。日本酒学の訳語をSakeologyとして、Enology(ワイン醸造学)と連携したわけです。

春名 お酒は科学だけではなく、文化も深く関わりますね。

牛木 そこが実は狙いです。日本酒を巡る文化的・科学的な幅広い研究の国際的な拠点、総合大学の全領域が関われる学問分野としました。ボルドー大学とは人の行き来もありますし、外国人醸造家向けの履修証明プログラムを組んだりもしています。

牛木学長
新潟大学長 牛木辰男

留学生の比率拡大に言語の壁
海外日本語学校との連携に可能性

春名 「国立大学の将来像」では、国際化の推進とともに国立大学全体で留学生比率を3割にするという目標を掲げています。これについてはどう見ていますか。

牛木 現在、留学生は基本的には大学院生ですが、学部留学生を増やすとなると、言語の問題がありますね。多くの大学では、学部の授業は日本語に特化していますから、日本語ができないと留学生は授業についていけません。授業を英語に切り替える方法もありますが、実情にそぐわない面も多い。その点、東京外大は語学が中心だから、学部留学生も募集すれば入ってくるでしょう。

春名 そうでもないと思っています。本学にとっても問題は同様です。外国語を教えるとはいえ、授業の基盤は日本語です。例えばフランスから来た学生が日本語でベトナム語を学ぶというのは、あまり一般的ではない。今、国際日本学部は定員の4割が留学生ですが、その枠を広げるか、別の方策を考えるのか、本学にとっても学部留学生受け入れの難しいところです。

牛木 その課題解決のヒントになるかわかりませんが、本学はベトナムで拠点づくりを進めており、現地の日本語学校が連携を強く希望しています。例えば高校レベルで海外の日本語学校で日本語を学んでから、日本の大学に入るかたちだと、学部留学生の受け入れが多少は進めやすいのではないでしょうか。

海外留学生の日本での将来
大学と社会がともに環境づくりを

春名 留学生の増員には入試制度も関わりますね。今、留学生は特別選抜のような枠で入ってきています。仮に、学部留学生も含めて全体で3割になると、従来の特別枠入試では、社会が納得しないでしょう。大きな入試改革が必要になります。

牛木 それに、彼らの将来をどう考えるかということもあります。これまでは、数は少ないけれど優秀な留学生を取るかたちでした。それが留学生を増やして、さらに総数の何%かは日本に残ってほしいとなると、日本社会に彼らを受け入れる仕組みや環境を整えなければなりません。

牛木 キャリア形成については、これは留学生に限りませんが、国立大学全体として、博士人材と、研究者を求める企業とをマッチングする仕組みができるといいですね。留学生の国内定着にもつながると思います。これについては今後、議論が必要です。

国内生の海外留学の壁は
学部・大学院一貫制で越えられる

牛木 一方で、日本から海外への留学ですが、昨今は学生の目を外へ向けさせるのが難しいと感じています。日本の経済事情も良くないですからね。

春名 確かに本学でも、この2年間で明瞭に数が減りました。やはり経済事情が大きい。海外も物価高ですし、円安も響いています。当人が望んでも難しい状況があるので、そこは何らかの手当が必要になりますね。

牛木 けれど、そもそも東京外大の学生は、海外へ留学したい人ばかりでしょう。

春名 そうですね。学生の70%ほどは在学中に海外留学します。ただ、留学すると在学期間が5~6年に延びるんです。

牛木 留学すると4年で卒業できないのですか。

春名 もちろん制度上はできます。けれども、実際は就職活動が壁になっています。例えば、英語圏であれば2年次に1年留学して4年で卒業できます。しかし、英語圏以外の国となると、事前に言語力をつける準備をしますから、出発は3年次で帰国が4年の6、7月で、もう就活が終わっている。それで1年2年延びる。単位互換制度があったとしても、4年で卒業は難しいのが実態です。

牛木 そこは本学も同様です。自分が望んで長くなるのはかまわないとして、4年で卒業したいのに留学するとできないというのは、意外と学生たちの足かせになっているかもしれません。

春名 私は、大学院進学と留学はセットで考えたほうがいいと思います。そこで、学部と大学院を5年間の一貫体制にしてはどうかと考えています。それならば就活の問題は回避できて、しかも修士号を取得して修了できます。

牛木 それはいいアイデアですね。これからの学生には必要とされる制度かと思います。

研究の国際化が進む今、
東京外大との連携にかかる期待

牛木 「国立大学の将来像」に「国立大学システム」の活用が挙げられています。国立大学間の連携・協働で相互の課題を解決していこうという考え方です。従来もさまざまなかたちで連携してきてはいますが、大学の国際化に関わる連携・協働で、何か考えていることはありますか。

春名 いろいろありますが、先ほどの留学生増員の話ですと、東京外大に期待される部分があるとすれば、例えば日本語教育の部分を他の大学と共有していくようなことかと思います。また、海外への広報に力を入れなければなりませんから、そこも本学が他の国立大学と力を合わせていけるところだと考えています。先ごろ東京農工大学と、ハワイへのスタディツアーを実施しました。ハワイで稲作を広められるかどうかを考えるツアーですが、文化やコミュニケーションを専攻している学生がいたほうが、いろいろな可能性を見出せるのではないかと企画されたものです。私たちは世界諸地域を扱いますから、連携できる面はいろいろあると思います。

春名学長
東京外国語大学長 春名展生

学問分野を超えて学べる環境づくりを大学連携で

牛木 新潟大学では学部に「メジャー・マイナー制(※1)」を導入し、大学院の融合(融合大学院構想(※2))にも取り組んでいます。これらは、従来の学問分野の枠組みを超えて、学生が自ら選んで学び、研究できる環境をつくるためです。特に後者は、新しい学問領域の創出が期待できますが、その根底には学生あるいは留学生にとって魅力ある大学にしたいという思いがあります。

春名 総合大学のそういうところはうらやましいですね。いろいろな分野をからみ合わせて、学際の結合点をたくさんつくり出せる。私たちも、東京科学大学、一橋大学、お茶の水女子大学と連携して複合領域コースを設定しています。こうした連携が今後は重要になっていくでしょうし、大切にしていきたいと思っています。

牛木 1つの大学で材料がそろわなければ、どんどん連携すればいい。大学が課題解決のために連携を密にしていくことは、国内のみならず海外ともつながっていく話です。「国立大学システム」の範囲にとどまらず、連携先は私立大学でも民間の研究機関でもいいと思いますよ。

大学キャンパスを未来都市に
それが国際化へもつながる道

春名 国立大学の国際化を考えるとき、東京外大の立場としてはやはり留学生のことが気になります。留学生を増やすことは大学の多様性を高めますが、キャンパスの範囲を超えて、社会への影響も目に見えるものになります。単に受け入れ枠を広げればよいというものではない。国立大学全体もそうですが、個々の大学も国際化の目的とビジョンを明らかにし、社会とのコミュニケーションをより丁寧に、密にしていくことが大切だと思います。

牛木 新潟大学には約1万2000人の学生がいます。人口規模では小都市といえるでしょう。そこで私はこれまで「キャンパス・グローバリゼーション」を提唱してきました。そのイメージは、海外からの学生や研究者もたくさんいて、多様な文化や知性と出会え、キャンパス内では次世代技術などの実証実験が盛んに行われている……そんな先進技術が導く未来都市です。新潟大学では今、企業や行政、地域、外部の研究機関などと一緒になって、地域課題の解決に取り組む「共創イノベーションプロジェクト」を展開しています。例えばそのように国立大学、特に総合大学は、多様なステークホルダーとの「共創」により、社会課題を解決する場であってほしい。それが大学の国際化へもつながるものと考えています。

※1:所属する学部の専門分野(メジャー)だけでなく、学部の枠を超えたメジャーとは異なる分野(マイナー)も学ぶことのできる仕組み。複数の専門分野を横断して学ぶことができる。
※2:新潟大学では、2026年4月に人文社会科学と自然科学を融合させ、総合知を育む「総合学術研究科」と、医療、歯科、保健学分野の先端知識と技術を横断的に学ぶ「医歯保健学研究科」の2研究科を開設予定。学際性重視の学位プログラムを大学院にも展開する。

牛木辰男 (うしきたつお)

1957年、新潟県生まれ。医学博士。1986年、新潟大学大学院医学研究科博士課程修了。1986年、岩手医科大学医学部助手、1988年、同講師。1990年、北海道大学医学部助教授。1995年、新潟大学医学部教授。2014年から同大医学部長を務め、2018年、理事・副学長などを歴任し、2020年より現職。専門は顕微解剖学。

牛木辰男 (うしきたつお)

春名展生 (はるなのぶお)

1975年、大阪府生まれ。博士(学術)。2008年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得後、2014年に博士取得。2015年、東京外国語大学大学院国際日本学研究院講師。2018年、同准教授。その後、国際日本学部 学部長補佐、副学長を歴任。2024年、同大学院国際日本学研究院教授。2025年より現職。専門は国際政治学、日本政治外交史。

春名展生 (はるなのぶお)

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