今年度(2020年度)から岐阜大学と名古屋大学からなる国立大学法人東海国立大学機構が動きだした。これは、国立大学法人における「一法人複数大学」制度の最初の実施例である。
東海国立大学機構では、新しい大学モデルの構築を目指し、超高齢化社会におけるリカレント教育や超スマート社会の基盤となる次世代型高等教育を含めて、世界と戦う東海地域の連携実績を踏まえ、財政基盤を強化し、教育力と研究力の強化を行い、産業構造の変革を促し、新しい大学モデルとNext Society の実現を目指している。この他に、奈良女子大学と奈良教育大学では、工学系教育課程の新設も目指した「国立大学法人奈良(仮称)」を、小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の3大学では、文理融合型教育システムや商農工連携による産学連携体制の構築を目指した「北海道国立大学機構(仮称)」を、さらに静岡大学と浜松医科大学では、地理的・分野的な利点を生かし大学の再編も行う「静岡国立大学機構(仮称)」を検討している。この新しい制度は、こうした典型的な「一法人複数大学」の他に、これまでの国立大学法人や法人の長と学長が別人である「一法人一大学」も包含するものである。
国立大学では、2004年に法人化して以来、運営費交付金が、じわじわと縮小され続ける中で「学長のリーダーシップ」のもとで、実に多くの改革が行われてきた。一方で、その多くは、既存の組織を抜本的に変えるものではなく、幾ばくかの学内資源を使い法人本部だけでできる組織の新設であり、それを学長が替わるたびに繰り返してきたようにも見られる。そういう状況において、新しい分野が、例えば、直近の数理・データサイエンス・AI、さらに広くSociety5.0関連分野等が凄まじい勢いで台頭し、データサイエンスについては、人文社会系も含めた全学生にリテラシーとして求められ、エキスパートレベルの高度な研究に至るまで迅速な対応が求められている。
このままでは、こうした社会や学界からの新しい要請に迅速に対応し、国際的に指導性を発揮し、地域を牽引する強固な教育・研究体制を構築することは難しい。しかし、今回の一法人複数大学の制度を使うと、既に、設計段階でそれぞれの大学から提示されているように、斬新な制度や抜本的な教学組織の改変・新設が可能になるであろう。それに加え、たとえスタート時点では、大学間の合意形成上、ある種の妥協を余儀なくされたところがあったとしても、その次の段階で、それぞれの大学の特徴を生かしながら、こうした抜本的な組織の再編や新設を含む大きな改革が進み、内外に強くアピールでき、次第にそれぞれの大学の評価が上がり、教職員だけでなく学生も含めて強化され、正のスパイラルが生まれるであろう。
それを可能にするのは、まず、法人統合後における構成員の意識のポジティブな変化と、多少の重複感もある構成員の効果的・効率的な再配置と活用である。最も大きな期待は、法人の構成大学における教育研究組織の本格的な再編である。例えば、新しい研究科や専攻を設置するために、既存の研究科や専攻の構成員を部分的に活用してスタートして、そこに在籍する学生の修了を待って、ようやく完成させるような、長期間を要する難度の高い組織の再編にも、素早く着手できるようになるであろう。
また、北海道国立大学機構(仮称)の構想にも折り込まれているオンライン授業やWeb会議システムの活用についても、最近の新型コロナウイルス感染症対策で期せずしてその効果が多くの大学間で共有されてきた。問題にされていた距離感への対策としてだけでなく、会議や授業の質を高め、参加者間の一体化も進み、時間も有効活用できるなど、通常の会議よりむしろ効果的であることも確認されている。オンライン授業やWeb講義についても、教員をはじめとする大学構成員の理解が急速に進み、それに伴って教材の開発や共有ができ、自然に集積される学習データの分析・活用による教育の改善という効果的な好循環も期待される。
さらに、IRやURAなど比較的に最近に顕在化した機能や職種への本格的な対応も可能になり、データやエビデンスに基づいた戦略的な教育研究が推進されるようになるであろう。
新しい制度の効果と期待について、いくつかの例を挙げてみた。大学の統合と違い、卒業生にとっては、自分たちが卒業した大学名が残り、母校に対する愛着も継続することになる。この制度が構成大学の発展を促し、その成果と効果が通常の国立大学法人にも波及し、大学構成員の意識に変革をもたらし、より本質的な改革が進むことを期待したい。
LEADER’S MESSAGE
一法人複数大学制度への期待
放送大学学園理事長(前九州大学総長)
有川節夫
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