第56号

2020年3月

広報誌「国立大学」 第56号
地域医療の中核を担う大学病院の貢献

LEADER’S MESSAGE

国立大学病院の地域に根ざした取組の現状

池ノ上克

宮崎大学長 

池ノ上克

はじめに

国立大学法人は三類型に分けられその機能を果たしている。地方にある多くの国立大学法人では地域貢献を視野に高等教育機関としての活動を続ける一方、地域に根ざしたニーズを捉えて研究や調査を展開し、その成果を世界に向けて発信する努力も行われている。地域の企業や行政機関など様々な組織との連携を深めるなど、大学の在り方も大きく変化している。大学病院は地域における医師確保や地域医療のシステムを構築する中心的施設として機能しているところが多い。臨床各科の地域医療の取組には、その特殊性を考慮した対応が大切であるが、地域の医療レベルの向上に向けたコーディネーターの役割を果たすことが求められている。

大学病院にも地域住民のニーズを捉えた医療の展開が求められている。日々進歩する先端的な医療を地域住民に提供することは、大学病院のもつ極めて重要な役割であり、それぞれの大学病院の特性を生かした工夫と努力が必要である。今回は宮崎大学医学部附属病院を中心とした周産期医療の現状について解説を加えてみたい。

宮崎県の周産期医療

宮崎県では県内を4つの周産期医療圏に分けて周産期医療の地域化を図っている。1次診療所に加えて、各地の6つの2次施設と、県央部に位置する宮崎大学医学部附属病院が3次の施設となって役割を分担している。厚生労働省から発表される都道府県別周産期死亡率をみると、本県では全国1~2位の良好な結果が続いている(図1)。

図1.宮崎県の周産期死亡率の年次推移(1980-2017年)

このような地域医療を維持するために大学関係者を中心に1次、2次、3次の医療担当者が6カ月おきに集まり、その間に生じた周産期死亡例やハイリスク症例の検討会を行って医療レベルの向上に向けた意見交換を続けている。また、毎年3月に県内の医師、助産師、看護師を対象としたセミナーを開いて、基本的事項を繰り返し伝えている。これは20年以上続いており周産期死亡率改善の大きな下支えとなっている。大学ではこの現状を背景にして周産期医学に関する様々な研究を行っているが、ハイリスク妊産婦の現状に関する研究の一部を紹介する。

県内の年間分娩数は約1万例であるが連続51,889例を対象にした全県調査によると、分娩の78.2%は1次施設で行われ、周産期センターは21.8%であった(1)。その内19%は地域周産期センターで決着し、大学病院には2.8%が搬送されていた。

周産期セミナー等を通じて、全域の施設でほぼ同様のポリシーによる周産期診療が展開されており、ハイリスク因子の早期発見の必要性を周知し、搬送を受ける方では何れかの施設で必ず受けるよう連携が取られている。その結果スムーズな医療の地域化が図られているものと思われる。

総合診療と周産期医療のエコロジー比較

Whiteら(2)は総合診療の立場からみて、症状のある住民がどのレベルの施設を受診したかを調査し、受診した施設のレベル分布を医療のエコロジーと名付けた。加えて40年の年月を隔ててWhiteら(2)と全く同じデザインで観察を行ったGreenら(3)の報告でも同じ結果であった。40年間の間に医療のレベルは進歩し、対象疾患も少なからず変化しているはずであるが、医療のエコロジーバランスは同じであったと報告している(3)。また、Fukuiら(4)による日本のプライマリーケアを対象にした研究でも同様の結果が得られている。

このような視点から宮崎県の周産期医療をみると両者は極めて類似していることが分かる(図2)。ただしWhiteら(2)は住民1000人当たりの1カ月間の症状について住民自身が受診すべき施設を判断した結果であるのに対し、妊産婦に生じたリスクを基に産婦人科医が判断して搬送先を決定しており、両者は異なっている。しかしながら医療の分野は異なっていても、医療が行われた施設レベルの分布は同様の結果であった(1)。

図2.プライマリーケアと宮崎県の周産期医療のエコロジ-の比較

おわりに

地方の大学病院に求められるリーダーシップは医療の進歩とともに益々重要になっている。さらに各都道府県に位置する大学病院が地域における医療人育成の中核としての役割を果たしているところは多く、今後もその重要性は続くであろう。大学内に教育担当の専任教授を配し、都道府県の行政や医師会と密に連携しながら、地域全体が一体となった医師の教育や確保に向けた取組が展開されている。

一方分野によっては様々な理由から医療の集約化が図られているが、地域によっては医療者の疲弊を招き、住民の不安を招くリスクも生じている。医療を提供する側の目線のみでなく医療を受ける側の目線も考慮したリスクに応じたエコロジーバランスの概念を取り入れることも考慮すべきであろう。


文献
(1)Tokunaga, S et al. Applying the ecology model in perinatal medicine. J Preg. 1-4 .2011
(2)White, KL et al. The ecology of medical care. N Engl J Med 1961;265: 885 - 92
(3)Green, LA et al. The ecology of medical care revisited. N Engl J Med 2001; 344: 2021-25
(4) Fukui, T et al. The Ecology of Medical Care in Japan JMAJ,2005;48(4):163-167

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