総研大以外の大学院生も受け入れ研究指導
短期で共同利用研究員として受け入れる制度も
―人間文化研究機構は6つの人文・環境分野の研究機関、一方の自然科学研究機構は5つの自然科学分野の研究機関で構成されている。まず、大学院生受け入れの状況をうかがった。
川合 各研究機関の主体は研究員と博士研究員(ポスドク)ですが、そこに総合研究大学院大学(以下、総研大)が加わります。総研大はもともと、大学共同利用機関との連携を基盤とする大学ですので、大学院生が在籍するとともに、当機構の研究員は教員としても総研大の教育プログラムに参画しています。その他の大学の学生は、共同研究のかたちで入ってくるケースが多いですね。これは国公私立の別なく、全国各地の大学から幅広い分野を専攻する学生が来ています。総研大と他大学の学生の比率は1対1ほどでしょうか。

木部 人間文化研究機構の場合も、受け入れ状況はほぼ同じです。ただ、総研大以外に、各機関が連携協定を結んだ大学の学生を受け入れています。例えば、国立国語研究所では、一橋大学と協定を結んで、連携大学院プログラムを実施しています。このプログラムでは、国語研の研究者が連携先の大学へ行って、授業を行います。

川合 ほかに、特別共同利用研究員制度がありますね。
木部 それは、博士課程または修士課程の大学院生を、短期的に共同研究員として受け入れ、必要な研究指導を行う制度です。数はそれほど多くはないのですが、人文系の場合、例えば国立歴史民俗博物館などでの研究はフィールドワークが主体になるので、在籍大学と博物館の共同利用研究員という二つの肩書で調査ができるメリットがあります。
川合 特別共同利用研究員制度は、かたちとしては大学院からの指導委託です。これから国立大学の大学院改革が進むと、他大学院への派遣も含めて、そういった指導委託が増えていくのではないかと思います。共同利用研究員はアルバイト待遇で雇用することもできます。
大学研究室間のコラボも生まれる機構利用
在籍大学以外の研究経験が高める意欲
―大学院改革においては、学生の流動化が重要施策のひとつに挙げられている。同一の大学にとどまらず、他大学や企業、海外など、多様な環境で経験を積むことが、研究者としての素養を高めると考えられているからだ。共同利用機関の大学院生受け入れ、研究者育成の取り組みは、そのひとつのモデルとして注目されている。
木部 人文系の研究機関では、学会などでの大学院生の研究発表が機関利用のきっかけになっています。そういう機会に機関の研究員と知り合って、ぜひ指導を受けたいと学生が来るケースが多いように感じます。
川合 理系の場合、共同研究機関を利用する最大のメリットは、最先端の設備を使えることです。それらを利用しにさまざまな大学の学生と教員が訪れますが、施設・装置の空きを待つ時間に、異なる大学の研究グループが顔を合わせ、そこからコラボレーションが生まれるケースもよくあります。
木部 いずれにせよ、大学以外での研究員や研究所との出会いが、学生の意欲を高めているのは確かだと思います。それに各研究機関に研究員として入る学生は、立場的には研究補助員ですが、研究のお手伝いというレベルではなく、皆さんそれをはるかに超えた活躍をしています。特に博士課程の学生ともなれば、すでに研究者としての素養はできていますから。
川合 それは当機構でも同じで、常々感じていることです。

複数大学に在籍して研究ができない日本
国立大学間ならば共同学位授与は可能
―国立大学間の学生の移動は、例えば学部から修士、修士から博士に進む際に見られるものの、全体として活発とは言えない。川合機構長は、2004年の国立大学法人化とともに「競争的環境」が求められたことが、大学間の連携や学生の流動を阻害する一因となっているのではないかと言う。
川合 それがここへきて大学間の連携が重視され、『国立大学の将来像(※1)』では、国立大学を総体としてとらえる国立大学システムの考え方が打ち出されました。今、国立大学協会では、そのあり方についてタスクフォースを設置して議論しています。私は会長補佐として加わっていますが、それが実行に移されると、今の状況は変わっていくと思います。
木部 ただ、それにはいくつか制度の改革が必要ですね。
川合 学生がひとつの大学にしか在籍できないことが問題です。複数大学の学位がとれる共同学位制度は、ヨーロッパでは30年以上も前からありますし、日本でも共同教育課程制度(※2)が2009年に創設されています。しかし、国内では制度上の制約もあり、普及していません。
木部 それに、論文博士という日本独特の制度もありますね。大学院に在籍しなくても、論文を大学に提出して審査に合格すれば博士号を取得できる制度です。これを利用すれば、複数大学の学位が取得できますが、論文博士には長い時間がかかります。そういうことが結果として、学生をひとつの大学に縛りつけておくかたちになっています。ただ、人文系の場合、博士論文の審査には他大学の教員が審査員として入るのが通例です。実態としては大学間の垣根を越えているのと同じですから、すぐにでも改革はできると思います。
中央か地方かにかかわらずどの国立大学でも
学生には同水準の教育・研究環境を
―社会課題が複雑化する現代。その解決に向けた研究には、大学間のみならず、文理の垣根を越えた協働が不可欠になる。両機構長は、研究機関を利用する学生が、自身の専門分野にとどまらず、異なる領域にも踏み込んで活動する姿を、しばしば目の当たりにしている。
木部 当研究機構の国文学研究資料館は、国内外約700の機関や個人が所蔵する30万点の古典籍をデジタル化し、『国書データベース』として公開しています。そこからさまざまなコラボレーションが生まれましたが、例えば情報・システム研究機構から、そのコラボに興味を持った学生も多かったようです。
川合 大学共同利用機関の4機構は、学術分野別に分かれてはいますが、連携活動は活発ですね。そうした連携をさらに強化しようと、4機構に総研大も加えた『大学共同利用研究教育アライアンス』が創設されています。
―4機構と総研大を総体と見て、連携・協働を促進していこうという着想は、国立大学システムと似ており、それを先行したかたちだ。
木部 一方、国立大学に目を移すと、全国の大学で人文系の窮状が著しい。特に地方大学は、大学院の博士課程への進学者ばかりではなく、教員の数も減って、博士課程の教育が難しくなってきているという現状があります。
川合 都市部の規模の大きな大学に研究者が偏っているためですね。
木部 だからこそ連携が必要です。国立大学が多様なかたちで連携して、大学院生を育てていく必要があります。これから必要というより、すぐにでもそれをやらないと、大学院教育に支障をきたす段階にまで至っています。
川合 地方大学は地域貢献型といわれますが、都市部であれ地方であれ、どこの国立大学に入っても高い水準の教育を受け、研究ができる環境を学生に提供することは、国立大学の使命です。そのためにどう連携の仕組みをつくっていくかを、先に述べた国立大学協会のタスクフォースで議論しているわけですが、国立大学間であれば共同学位の授与はそう難しくはないでしょうし、連携強化につながると思います。学生から見ても、興味の持てる施策になるのではないでしょうか。

日本の研究力強化の基盤づくりに向け
国立大学システムの早期構築を
―両機構長によれば、研究機構の研究者育成は、今後も厚みを増していく模様だ。
木部 大学共同利用機関を利用する利点は、理系ならば、大学にはない実験施設などを使って研究に取り組めること。人文系では、量的にも質的にも大学とは桁違いの資料があり、それらの実物を見られること。総研大以外の大学院生でも、特別共同利用研究員の制度を利用できますし、その意味でも大学共同利用機関は大学同士をつなぐ要にもなると思います。貴重な機関ですので、使い倒すくらいの意気込みで利用してほしいですね。
川合 今『共共拠点』という略称で呼んでいると思いますが、国立大学を中心として、文部科学省が認定する大学内の共同利用・共同研究拠点(※3)が整ってきています。独立した共同利用機関と同じような機能を持つ施設です。それらとも一緒に、研究者育成の全体像を組み立てていきたいとも考えています。
― 最後に大学院改革とも関連して、国立大学の今後について意見をいただいた。
川合 日本の研究力の低下が言われていますが、その研究力の6割ほどを支える基盤となっているのが国立大学です。重ねてにはなりますが、大学によって違いがあるのは当然としても、やはり学生が地方の大学でも都市部の大学でも、同じ水準の教育・研究経験ができるようにしなければいけないと思います。研究者を育成する側として、国立大学全体で機能する国立大学システムができるだけ早く構築されるこ
とを期待しています。
木部 一緒にやりましょうというのが私のメッセージです。地方の生活文化や歴史資料は、非常に貴重な研究素材ですので、人間文化研究機構としては、地方大学と連携していきたいと思っています。今は大学院生が地方から都市部へ流れる一方通行のかたちですが、逆に都市部の大学の大学院生が地方で学ぶという流れもあれば、人材と知が循環します。そのような循環を生み出す仕組みづくりが必要だと思います。
※1 国立大学の将来像:「わが国の将来を担う国立大学の新たな将来像」国立大学協会 2025年3月
※2 共同教育課程制度:複数の大学が共同で教育課程を編成できる制度。学位は構成大学の連名で授与される。
※3 共同利用・共同研究拠点:国公私立大学の研究施設のうち、個々の大学を越えて全国の研究者が共同で利用したり、共同研究を行うことができる施設。
木部暢子(きべのぶこ)
博士(文学)。九州大学大学院文学研究科修士課程修了後、私立短期大学勤務を経て鹿児島大学法文学部へ。1999年より同大学教授。副学部長、学部長を歴任した後、人間文化研究機構国立国語研究所教授、特任教授を経て2022年より現職。専門は日本語学(方言学)。
川合眞紀(かわいまき)
理学博士。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了後、理化学研究所に所属。2004年、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。理化学研究所理事を務めた後、自然科学研究機構 分子科学研究所の所長に就任。2022年より現職。専門は物理化学、ナノ構造科学など。
※本記事に掲載している情報は、2026年7月時点のものです。