66号 Challenge!国立大学 特集【女性研究者の育成・活躍】

弘前大学 岩手大学 東北大学 お茶の水女子大学 奈良女子大学 奈良先端科学技術大学院大学 九州大学 大分大学

弘前大学

リクルートからステップアップまで女性研究者の活躍支援策を構築

弘前大学では、研究者のリクルートからステップアップまでのさまざまな段階に応じた取り組みを導入し、女性研究者の育成と活躍支援を図っている。例えば、将来的に上位職への昇任を希望する女性研究者に対して、理事と所属長を「プロモーションメンター」としてマッチングし、研究や管理運営等について相談できる制度を設けている。

教員公募を実施する学部等に対して、候補となり得る女性研究者にアウトリーチ(情報を届けるための積極的な働きかけ)をするための旅費や広告費等の経費を支援する取り組みも実施している。また、教員公募の面接のために来学する女性研究者に対して、旅費を支援している。旅費支援は、女性研究者に応募を積極的に検討してもらうとともに、実際に活躍の場となる研究環境や生活環境を見てもらうことをねらったもの。

さらに、性別に関わる無意識の偏見によって優秀な女性研究者が活躍の機会を奪われることのないよう、教員公募の選考段階をジェンダーの観点からレポートする制度も設けている。この制度では、選考に関わる教員は、無意識の偏見について研修を受けることとなっている。

弘前大学では、平成21年度に男女共同参画推進室を設置し、女性研究者支援を進めてきた。以上の支援制度の構築は、平成28年度に文部科学省科学技術人材育成費補助事業ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)【代表機関:岩手大学】に共同実施機関として採択されたことをきっかけに進めたものである。

平成28~令和3年度の6年間の取り組みによって、女性研究者比率は平成27年度17.5%から令和3年度20.2%に改善し、50名の女性研究者(うち教授へ8名、准教授へ13名)が昇任。令和4年度には、ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特性対応型)に採択され、さらなる女性研究者の育成・活躍支援を図る。

北東北ダイバーシティ研究環境実現推進会議(現:北東北ダイバーシティ研究環境推進コミッティ)発行のリーフレット。
弘前大学がコンテンツ作成に中心的な役割を果たした。


岩手大学

I.W.A.T.E. 1 in 3 女性リーダー職研究者倍増プラン

岩手大学では、科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアチブ(女性リーダー育成型)」の採択を受け、全学的かつ包括的なダイバーシティ推進の取り組み「I.W.A.T.E.」(Inclusion, Whole University, Academic Career Development,Transnationality, Executive Women Boost)を実施している。

【Inclusion】の取り組みとして、多様性対応ガイドラインの策定を計画している。

【Whole University】の取り組みとして、学長をトップとしたダイバーシティ推進委員会を設置し、全学的推進体制を構築・強化した。

【Academic Career Development】として、若手・女性クロスアポイント制度導入、「閉鎖的」など東北地方のネガティブイメージの払拭を図る「女性活躍・ダイバーシティ採用フェア」開催等に取り組む。

【Transnationality】として、女性研究者グローバルキャリア支援海外派遣制度を実施する。また、女性の抱えやすい問題にセンシティブな在外研究支援・客員研究員受け入れ支援のためのセンターを設立する。

【Executive Women Boost】として女性研究者に一定期間のバイアウト費用を支給することで研究時間の捻出を支援し、また、女性教員昇任で生じる差額人件費を外部資金で補助するほか、女性教授を各理事・副学長付特別補佐に任命する等の取り組みを実施する。

以上の取り組みにより、2027年度には、女性教員在籍比率22%、女性教授在籍比率11%、大学執行部の女性比率20%に増加させることを目指す。

岩手大学ダイバーシティ推進室HP https://diversity.iwate-u.ac.jp/


東北大学

次世代女性研究者育成及び両立支援を広げ、
より多様性・公正性・包摂性の実現を目指す

東北大学は、2006年全国初となる理系女子大学院生組織、サイエンス・エンジェル(現サイエンス・アンバサダー=略称SA)制度を創設し、小中高校生に科学の魅力を伝えつつ、女子学生の理系進学を促す身近なロールモデルとして活動を進めてきた。SAは高校生を対象とした出張セミナー、科学イベント等への出展、オープンキャンパス時の相談対応、ウェブサイトでの情報発信などを行っている。

16年間で延べ958人のSAが輩出され、SAOGによる「輝友会」と現役SAとのさらなるネットワーキングも生まれ、女性研究者としての意識醸成に繋げている。このような大学院生ネットワーキングをより広げるために、2021年には人文社会科学系の女子大学院生、2022年には性自認が女性である大学院生もSAとして受け入れ、より多様性のある組織に再編している。

また、子育ては女性だけの問題ではないという考えのもと、出産や育児などのライフイベントに伴う育児休暇や研究支援要員を雇用する財源を補助する事業、ベビーシッター利用料等の補助事業等を性別に関係なく全教職員を対象に拡大するほか、同大学独自の男性職員の育児休業制度を設けるなど、両立支援の充実化を図っている。

同大学は、これまでの男女共同参画を発展させ、全ての構成員のダイバーシティが尊重されるよう意識啓発や環境・制度整備を促進している。その出発点として学内構成員を対象に「性の多様性」に関するアンケート調査を実施、無意識のバイアスを克服するためのリーフレットを作成・配布するほか、2022年4月にダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)推進宣言を行い、6月20日にはDEI推進宣言記念シンポジウムを開催した。

これらの活動が評価され、2022年11月に科学技術振興機構(JST)による「輝く女性研究者活躍推進賞(ジュンアシダ賞)」を受賞した。

男女共同参画推進センターHP:http://tumug.tohoku.ac.jp

2022年6月20日に開催した東北大学ダイバーシティ・エクイティ&
インクルージョン(DEI) 推進宣言記念シンポジウム


お茶の水女子大学

世界で活躍できる女性研究者、および未来の理工系女性人材の育成

お茶の水女子大学は、「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する」というミッションに基づき、若手女性研究者の継続的な研究活動をサポートするとともに、研究中断後に円滑に研究現場に復帰する機会を提供するため、同大学独自の特別研究員制度である「みがかずば研究員制度」を実施している。

また、子育てをしながら研究を行う学内の女性研究者を対象として研究補助者を配置する支援や、男女共同参画の観点に立ち、男女を問わず研究者が育児、親族の介護・病気の看護を行う際の一時的支援も実施しており、研究者のライフスタイルの多様性を尊重し、様々なライフイベントと研究との両立を可能とする研究環境を整備している。

この結果、国立大学協会が実施する調査(国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第18回追跡調査)において、同大学の教員全体に占める女性の割合は44.9%であり、本統計調査開始時から継続して国立大学法人1位の数値を維持している。

その他、我が国の理工系女性人材の層を厚くするため、初等・中等教育において女子生徒が理工系分野に興味や関心を抱く取り組みも行っている。理系への関心が薄い層から、理系の進路を選択した女子生徒、保護者、教員など多様なステークホルダーを巻き込んだ、講演会、セミナー等を実施し、研究者を目指す人材の育成に繋げている。


グローバルリーダーシップ研究所 https://www.cf.ocha.ac.jp/igl/
理系女性育成啓発研究所 http://www-w.cf.ocha.ac.jp/cos/

アカデミック女性リーダー育成事業

JST事業を中心とした女子中高生向けの取り組み


奈良女子大学

女性リーダーの育成と輩出
~女性研究者養成拠点の歩みとさらなる挑戦~

奈良女子大学は、女性研究者のための環境整備、女性研究者の採用・昇任、研究力向上、キャリア形成支援、裾野拡大、女性研究者のネットワーク構築等を大きく進め、2022年4月現在、女性教員比率は全学で40.6%、自然科学系分野の女性教員比率も35%を占める。

特色ある取り組み 
同大学独自の子育て支援システム「ならっこネット」:Webシステムを用いて、子育て中の教員や学生に、サポーターを安全・迅速に配置するシステム。他の機関に委託するのではなく、大学で運営しており、女性研究者のニーズに合った細やかな支援が可能である。2021年4月から病後児保育支援も開始した。
「教育研究支援員制度」:妊娠・出産・育児・介護に携わる女性教員に支援員を配置する制度で、男性教員も含めて本人の病気・怪我による事由でもこの制度を利用できる。
その他、「ワークライフバランス支援相談室」や子どもの預かり支援室「ならっこルーム」、「フィッティングルーム」など、女性研究者がはたらきやすい環境を整備している。

成果・評価など 
これらの環境整備の下で、女性研究者の外部資金の採択件数、論文数も大きく増えた。過去12年間に同大学で任期満了となった若手女性研究者30名のうち、19名は上位の職階へ異動し、11名は同等の職階への道を進んでいる(なお、30名のうち27名は他大学へ異動)。同大学理学部卒業生の大学院進学率は55-60%で、うち20-30%は他大学の大学院へ進学している。
国立大学理学系大学院前期課程院生(女性)の約1割は、同大学の理学部出身者であるというデータもある。このように、奈良女子大学は、女性研究者の裾野を拡げ、学内で育成し、さらには採用・昇任させ、他大学へも優秀な女性研究者を輩出しており、今後も女性研究者の養成拠点としての役割を果たしていく。

「奈良女子大学男女共同参画推進機構」HP https://gepo.nara-wu.ac.jp/
「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」HP https://diversity-center.nara-wu.ac.jp/

ならっこルーム(奈良女子大学)


奈良先端科学技術大学院大学

テニュア・トラック制度の独自運用による「女性教授」候補の採用

わが国で教授クラスの女性研究者が少ないことが課題になっている中、奈良先端科学技術大学院大学ではテニュア・トラック制度を活用し、教授への育成を視野に准教授クラスの人材を女性限定で募集した。

公募の結果、ここに紹介する2名の優れた研究者を迎えることができた。情報科学領域の田中沙織特任准教授は、人間の行動原理を脳の情報処理機構に基づいて解明する研究を進めている。また、植物の卓越した再生能力を研究する池内桃子特任准教授は、バイオサイエンス領域で遺伝子の働きや細胞分化の仕組みの究明に取り組む。

ともに独立した研究室を主宰し、1,000万円のスタートアップ研究経費や博士研究員の雇用経費を提供するなど(当初3年間)、研究に専念できる環境を整備するとともに、女性研究者活躍のロールモデルとしての育成・支援を行っている。
〇報道資料 http://www.naist.jp/pressrelease/2021/10/008352.html

同大学はかねてより、「男女共同参画室」を中心に、妊娠・出産・育児をサポートするアカデミックアシスタントの配置や、学内4ヵ所の女性専用休憩室の整備など、女性研究者(職員・学生)の支援を積極的に推進している。

とりわけ、育休取得の資格条件(一定の在職期間や雇用形態など)の廃止は、全国の大学に先駆けて実現させたもので、一連の施策により、女性教員の在籍比率がこの5年間で8.8%から13.2%に向上するなど、顕著な成果となって現れている。

「女性研究者の活躍」は理工系分野の大きな命題であり、今後も継続して取り組んでいきたい。
〇 男女共同参画室 http://www.naist.jp/gender/index.html


情報科学領域 計算行動神経科学研究室
田中沙織 特任准教授


バイオサイエンス領域 植物再生学研究室
池内桃子 特任准教授


九州大学

世界と伍して戦える女性・若手研究者を育てる:
SENTAN-Q 教員育成研修

九州大学は、総合知で社会変革を牽引する大学の実現に向け、女性・若手・外国人研究者など多様な経歴等を有する人材の獲得・育成・定着につなげる取り組みとして、ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修(SENTAN-Q)を2019年度に全学的に開始した。

部局推薦の優秀な女性及び若手教員の中から、外部有識者を含む透明性の高い全学審査を経て、毎年10名程度の研修生が選出され、研修生たちは世界トップの海外講師の指導を受け、世界へと羽ばたく。原則2年間の国際研修を修了した後には、1年以内に1段階の内部昇任が保証されている。

研修生の女性比率は55%で、現在迄に第1-4期生41名が選出され、うち20名が研修を修了し、女性教授6名/准教授7名が新たに誕生している。

女性・若手研究者の上位職登用を通じて人事の流れを正常化し、新規採用を促進する狙いがある。研修中に女性教員2名が出産し、男性1名を含む3名が育児休業をするなどライフ・ワーク・バランスも良好である。

期待できる成果・評価
同研修は、女性・若手研究者が上位職登用後幅広く活躍できるようにデザインされたプログラムであることに加えて、研修という新たなスタイルでダイバーシティ推進を目指す野心的な取り組みとして、国内外で高く評価されている。性別・年齢・職位・専門・国籍が異なる多様な次世代教員が共に学ぶことで学内ネットワークが形成され、真に公平でバイアスのない大学環境が実現することが期待される。

SENTAN-Q HP


大分大学

地域社会における「知の拠点」として地域と連携した
ダイバーシティ推進を展開

大分大学は、平成29年度に文部科学省の補助事業である「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」に採択、同大学を代表機関とし、現在、4共同実施機関及び9協力機関と共に「おおいた連携ダイバーシティ推進会議」を運営している。
同会議では、共同研究、スキルアップに関するセミナー、意識改革に関するセミナーやシンポジウム、異業種交流会などを開催し、産学連携ダイバーシティの推進に取り組んでいる。 

女性研究者・技術者がライフイベントを乗り越えての活躍が容易ではない地域社会風土の中、同会議では県内245機関を対象とした大規模アンケート調査を実施。その分析結果に基づき大分地域の課題を解決するために「サファイア人財育成プロジェクト」を構築し、女性研究者・技術者をリーダーとする産学連携共同研究を4プロジェクトで推進している。なかでも、女性企業人の学び直し講座である「女性人財育成プログラム」が特に好評である。

これらにより、同大学の女性研究者在籍比率は平成29年19.7%→令和4年22.3%、女性教授の比率は平成29年11.7%→令和4年15.7%と増加し、共同実施機関においても、女性研究者数が増加し、研究開発の女性リーダーが誕生する等の成果を挙げている。今後も、女性研究者・技術者が主役となった地域創生の推進が期待される。