59号 Challenge!国立大学 特集【ニューノーマルに向けて動き出す大学】

東京外国語大学 茨城大学 信州大学 金沢大学 大阪大学 鹿児島大学

東京外国語大学

国内外に向けた37言語のオンライン講座をスタート

東京外国語大学は、2006年から広く大学生や社会人を対象に「TUFS オープンアカデミー」を開講し、延べ 2 万人の受講者に語学や教養の講座を提供してきた。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、昨年11月に全講義をオンラインに移行し、新たなスタートを切った。

2020年度秋期間は、37言語の語学など全 120講座をオンラインで実施し、延べ 2,241名が受講。うち 25%は、従来の教室型では受講できなかった首都圏外や海外からの受講者だ。今春には 45言語の語学など 150講座を開講予定である。アムハラ語、ポーランド語など、日本国内では学習の機会が少ない講座も多数提供する。

コロナ禍を受けて広がった教育のオンライン化は、大学教育のみならず、大学の行う社会貢献事業も大きく変えていく。同大学は、これまでも言語教育・異文化理解教育を社会人向け講座の形で提供してきたが、オンライン化によりその裾野は日本全国に広がった。

外国人労働者の受入れなどに伴い、日本のどこにいても、様々な言語、異文化や異なる価値観に対する理解が求められる現在、こうした学習の機会を必要としている人々、現場は数多い。オンライン講座への反響は大きく、さらに多様な言語、文化講座への要請も高まっている。その期待に応え、事業をさらに拡大していく予定である。

120講座・37言語のオンライン講座を提供

タイ人ネイティブ講師によるタイ語中級会話クラス


茨城大学

実績とステークホルダーの協力を礎に、大学教育のDXを促進

茨城大学では、コロナ禍以前から BYOD 環境や情報支援体制の整備を推進。そのため遠隔授業もスムーズに開始された。遠隔授業に関する全学 FD も 20 回近くに及び、同大学の強みでもある体系的な教育質保証のための調査システムにより、遠隔授業の効果もいち早く検証することができた。

調査では、遠隔授業において理解度・満足度、授業外学修時間の向上が確認されたことから、デジタルコンテンツを生かした授業の有効性を確信。一方、それらの取組の推進には学内外のステークホルダーの理解が欠かせないため、戦略的な広報を展開した。授業調査結果に関するプレスリリースは、全国規模のテレビや WEB ニュースでの報道にもつながった。また、授業調査の結果を踏まえ、学生たちが今後の望ましい授業のあり方を発表する取組もあった。さらに、昨年秋に実施したオンライン教育に関するシンポジウム(共催:国立大学協会)では、茨城県内の他の大学等の参加も得て、地域で連携した教育改革の姿勢も訴求した。

今後はステークホルダーの理解・協力のもと、スライドや動画等の授業コンテンツを事前学修に生かすような新たな授業スタイルへの転換により、大学教育の DX を率先して進めていく。

前期の授業調査結果の例

遠隔授業を経験した学生による授業に関するプレゼンテーション


信州大学

オンラインによる1年生のための学修支援体制を構築

信州大学では、全学部の1年生が利用する中央図書館においてピアチューターによる学修支援サービス「ピアサポ@Lib」を行っている。「ピアサポ@Lib」はラーニング支援部門とライティング支援部門からなり、それぞれ学修相談、レポート執筆支援を担っている。2020 年度からは、コロナ禍をきっかけとしてオンラインによる支援を開始した。事前予約することで、1 年生は自宅に居ながらピアチューターに学修の相談ができる。一方、中央図書館では予約なしでも対面での相談が可能とした。また、初めてレポートに取り組む1年生のためにピアチューターが制作した動画「レポートの書き方講座」を公開し、学生に主体的な学修機会を提供している。

支援を受けた学生からは「自分の気づかないことを指摘してもらえた」「自信を持って取り組めるようになった」といった声が聞かれた。複数キャンパスを有する同大学において、オンラインによりキャンパスを超えた支援体制が整った意義は大きい。来年度は、Zoom等を活用したレポート執筆支援のオンラインイベントも予定。オンラインを駆使することにより、1年生に活用される学修支援の実現を目指している。

オンラインでの学修相談対応の様子

ビデオコンテンツ「レポートの書き方講座」の一場面


金沢大学

コロナ禍の先にある未来社会を拓く人材育成に尽力

金沢大学は、文理融合の学知を基にイノベーション創出をリードする人材の輩出を目指す「融合学域先導学類」を本年4月に創設する。これに先立ち、同学類が展開する課題発見型学習を通じたアントレプレナー教育がもたらす教育効果の真価を問うべく、同学類の教育方法を取り入れた共創型のオンラインプラットフォーム「ビヨンドコロナフォーラム(BCF)」を展開した。
BCFでは、大学生や高校生が、自ら見出したコロナ禍の社会的課題に対し解決のためのアイデアやビジネスモデルを動画で提案。学生らは、プロデューサーとして参画する同大教員、地元企業、起業家らの助言を受けながら、事業化を目指して共に解決策を磨き上げた。約半年の募集の結果、国内外の学生から計407件の提案があり、早くも同大学の学生5グループが起業に向けて準備を進めている。
同大学では、文理融合の学びとSTEAM教育を全学に波及させ、自身の専門に軸足を置きながら異分野・異文化の協働により社会的課題を解決する社会変革先導人材の養成に力を入れていく。先導学類創設を契機に、BCFの取り組みが示す、アントレプレナーを目指す機運を全学で高め、コロナ禍のみならず、未来社会を切り拓くことができる人材を育成していく。

オンラインで開催したBCFイベント「BCLive」

BCFを運営する学生スタッフ


大阪大学

動画コンテンツによる新入生の学習保障〜ブレンデッド教育体制確立に向けて〜

大阪大学では、2020年3月に「ウェルカムチャンネルチーム(座長:佐藤浩章准教授)」を設置した。授業開始前段階の新入生に対し、平日毎日、模擬授業、学習方法やキャンパスライフについて学ぶ動画コンテンツ(総数63本)の作成・配信を行い、その総視聴回数は31,359 回(2021年2月19日現在)、また、LINE公式チャンネル友だち登録者数は、入学生の約3 分の1 にあたる1,025名(2020 年5月30日現在)となった。

視聴した新入生からは「授業開始が延期になりフラストレーションを抱えていたが模擬授業が解決してくれた」「大学からのサポートを受けていると感じる」など肯定的な意見が多く寄せられた。授業の受け方、レポートの書き方などもわからない新入生にとっては、オンライン授業・課題提出への初期対応としても非常に有効であったことから、今後もこの取組は継続していく方針である。

同大学では、高大接続から社会人を対象としたリカレント教育に至るまで、一貫した教育体制の構築を目指し、学習効果を最大化するためのブレンデッド教育(対面とオンラインの学習活動を効果的に組み合わせたカリキュラムおよび授業形態)を来年度以降も教育方法や評価方法を学ぶためのFD(教員研修)などの場面で推進していく。

大阪大学におけるブレンデッド教育の定義


鹿児島大学

バーチャル家庭訪問を教材にヘルスアセスメント教育を実施

鹿児島大学医学部保健学科では4 年次にチーム医療実習を実施している。2020年度は、コロナ禍で通常の実習が困難となったことから、離島住民のバーチャル家庭訪問を教材としたヘルスアセスメント教育をオンラインで実施した。

3専攻(理学・作業・看護)の教員が鹿児島県三島村の黒島に赴き、学生に扮して一人暮らしの高齢者宅にて家庭訪問を行い、その様子を撮影した動画を制作。教育効果を高めるために、実習の目的・目標、方法、評価、注意事項等を記載した要項を作成のうえ、アセスメントの視点を明確にするためのアセスメントシートも開発した。

実習では、学生が対象者とその居住地域について自らの専門性を踏まえたアセスメントを行い、離島での高齢者支援のあり方についてチーム医療の視点で議論。「バーチャルではあったが対象者の生活がよく見え、他専攻の学生と議論することで対象者をより多角的に捉えることができた」といった感想が聞かれた。

コロナ禍におけるバーチャル教材を用いた教育のモデルにもなることから、同学科では制作した動画を公開する予定であり、動画の多言語化も進めている。さらに取組を、他学部と連携した「離島における保農獣工連携家庭訪問事業-人間・作物・動物・集落の健康のための三島村プロジェクト-」に発展させていく予定である。

教材制作のための撮影の様子

オンラインでの学生発表の様子